被爆から65年。母親の胎内での被爆も含めて、すべての被爆者が高齢者となる。身も心も深い傷を負いながら生き抜いてきた人たちに、老いが重くのしかかる。
年を取るにつれ、誰しも健康や暮らしの不安がつきまとう。原爆放射線を浴びた被爆者の場合にはとりわけ大きかろう。
被爆者健康手帳を持っている全国の被爆者数は3月末現在、前年より約8千人少ない22万7500人余り。ピークだった1981年に比べると約4割減った。
平均年齢は77歳に迫る。71歳に届いていなかった2001年と比べると、10年間で6歳近く延びた勘定である。
急速な高齢化は被爆者にどんな影響を及ぼしているのだろうか。
健康面での気掛かりは、がんが増えていることだ。広島赤十字・原爆病院でみると、近年では治療を受けて退院した被爆者の約3分の1をがんが占める。亡くなった患者に限れば4分の3は、がんだったという。
被爆していなくても高齢者にはがんが多い。加えて、被爆時の年齢が若いほど、がんにかかるリスクが高くなるといわれている。
一般の高齢者以上に、検診による早期発見と治療が欠かせないゆえんだ。しかし、がん検診の受診率はあまり伸びていない。被爆者が検診を受けやすい環境づくりが求められる。
それと同時に、被爆者の暮らしが危うくなりつつある点も見逃せない。高齢者全体と比べたところ、被爆者の一人暮らしの割合が10ポイント高かったという広島市でのデータも報じられている。
それならば施設はどうか。市内には原爆特別養護ホーム3カ所(定員合計500人)と養護ホーム1カ所(100人)がある。
しかし、このところ希望者が増え続けているために、待機者は全体で2千人を突破した。入居者の平均年齢は85歳前後。100歳以上の人も10人を超えている。
被爆者の中には、原爆で家族の大半を失ったり、病気がちで結婚しなかったりした人もいる。高齢になって身寄りが減れば、孤立感を深めるのも当然といえる。
市が08年から2年がかりで行った健康意識調査の結果、今なお被爆者の4〜8%に心的外傷後ストレス障害(PTSD)やそれに似た症状がみられることが明らかになった。
これまで被爆者の心のケアも十分だったとはいえまい。行政や民間が協力し、被爆者の暮らしを総合的に支える相談窓口などを設けてはどうだろう。
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