中国新聞社
2011ヒロシマ
'11/8/1
【天風録】8月の宿題

「娘よ 宿題は終わりましたか?/かあさんの心には あの日の宿題が/まだ残っているのです」。何げない日常を平明にすくい上げた詩人の高田敏子さん。「八月の真昼」にこんな一節がある▲高田さんの「あの日」は先の戦争が終わった日だった。夫の赴任地である台湾に移り住み、3人の子どもと疎開していたかの地の農村で迎えた敗戦。「太陽がおそろしいほどに明るく/水田には白サギが舞っていた」。8月ほど、戦争の記憶と分かち難く結び付いた月はなかろう▲広島市の平和記念公園かいわいでもこのところ、親子連れやグループが目立つようになった。噴き出す汗を拭いながら、地図片手にあちこちの慰霊碑を訪ね歩く。そんな姿に思わず「しっかり胸に焼き付けて」と声を掛けたくなる▲ところが、お膝元の子どもたちの関心が薄らいでいるという。原爆投下日時の1945年8月6日午前8時15分。昨年の市教委調査では、小4〜6年の3人に1人しか正答できなかった。中学生で2人に1人ほど。そろって95年以来の最低となった▲ふと気になる。それは、子どもたちだけなのだろうかと。高田さんは目を背けなかった。「まちに 人があふれ/ネオンがいくらかがやいても/やっぱり 残っている私たちの宿題」。66回目の8月が巡り来た。

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