68年前、特徴的なT字形から米軍のB29爆撃機「エノラ・ゲイ」が原爆投下の照準点にしたとされる広島市中区の相生橋。投下時刻の午前8時15分に合わせて「T」の人文字を描くイベントが4日、あった。集まった約600人が上空を見上げた。「多くの人が平和への思いを重ねた意味は大きい」。発案者で現代美術家の保井力さん(28)=南区=と画家の掛田智子さん(31)=中区=は語った。
子どもや会社員、主婦、まちづくりの市民グループメンバー、被爆者…。さまざまな人が交流サイトやチラシの呼び掛けに応じた。修学旅行生の姿も。思い思いに、投下目標とされてしまった人々の気持ちを想像したり、犠牲者を悼んだりした。
保井さんは兵庫県姫路市生まれの広島市育ち。大手町商高(中区)を卒業後、南区の共同アトリエで絵画やイラストの創作を始めた。平和を題材に取り入れたのは、若手の芸術家グループ「プロジェクトナウ!」に入った昨年から。「押し付けの平和ではない、自由に表現する仲間に触発された」と話す。
人文字は市内3美術館の共同企画「アート・アーチ・ひろしま」の一環。掛田さんと、「平和の懸け橋」に投下目標となった相生橋を重ねて発案した。
開催が決まり、二つの広島県被団協を訪ねた。2008年、東京の芸術家集団が広島市上空に飛行機のスモークで「ピカッ」の文字を描き、被爆者に怒りと悲しみを広げたことを意識したから。「丁寧に説明し、理解と応援をいただいた」と保井さん。ヒロシマを伝えていく方法はさまざまあっていいと思う。
イベントに参加した同県府中町の被爆者平井昭三さん(84)は「若い人が集まってくれてありがたい。被爆者の代わりに平和をつくってほしい」と顔をほころばせた。(門脇正樹)
【写真説明】相生橋から空を見上げ、68年前に思いをめぐらせる保井さん(手前左)と掛田さん(同右)相生橋に並び、「T」の人文字をつくった参加者=4日午前8時15分(撮影・天畠智則)




