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■特集 米国編 次代へ伝える
ウェストタウン校 '05/6/24

 ◆被爆証言 真剣な視線 核軍縮へ行動模索

 ペンシルベニア州フィラデルフィア市から西へ車で約一時間半のウェストタウン市。その郊外の田園地帯に、二百六年の歴史を誇る私立ウェストタウン校はある。

 れんが建ての校舎兼寮、教員住宅、グラウンド、畑、湖などが広島市民球場百個分の敷地に広がる。平和ミッションの一行はゲストハウスに泊まり二日間にわたって、平和授業や交流をした。

 同校に通うのは幼稚園児から高校生まで八百人。高校二、三年生は全寮制である。生徒たちはミッションが訪問する一週間前から、ヒロシマ・ナガサキに関する学習に集中的に取り組んだ。

 六百六十席を収容する校内の劇場ロビーには、広島市から取り寄せた原爆写真ポスターを展示。折り鶴の束が飾られていた。この劇場で訪問初日、高校生約四百人を対象に平和授業に臨んだ。

 原爆被害の実態を記録した映画を観賞し、村上啓子さんが被爆体験を語った。その後の質疑応答では終始、十人余の生徒の手が挙がっている状態が続いた。

 「原爆投下を正当化する意見について、どう思いますか」。男子生徒の質問に村上さんは「日本は当時、既に疲弊していて、敗戦は間近だった。私は原爆の実験台にされたとしか思えません」と答えた。

 女子生徒が続く。「核軍縮について高校生なりにできることはなんですか」。前岡愛さんがすかさずマイクを握った。「米国では今も核兵器開発が進んでいて、それによる住民の健康被害や環境汚染が起こっています。本や新聞を読んで、自分の国で何が起こっているかをまず学んでください」と助言した。

 翌日は二つの授業に参加した。そのうちの一つ「歴史」では、中学三年と高校一年の計五十人全員が、米国の作家ジョン・ハーシー著の「ヒロシマ」を机の上に置いていた。用意周到な事前学習にメンバーは感心しながら、ここでも相次いで質問を受けた。

 「米国の核政策についてどう思いますか」。男子生徒からの問いにスティーブ・コラックさんは「核兵器開発が加速する下り坂に差しかかっていて、とても危険な状態だ」と強調した。

 高校二、三年生を対象にした「平和と正義」というユニークな授業にも加わった。平和や環境にかかわる活動の実践方法を学ぶのが目的である。コラックさんは「核兵器開発を支持しないよう地方選出議員に手紙を書くなど、今すぐにでも始められる活動もある。平和活動をする際のリーダーシップやグループの運営方法などを、高校生活の中で身につけてください」とエールを送った。

 メンバーは滞在中、食堂で寮生と語らいながら食事した。中学生全員を集めた平和授業や教諭陣との意見交換の機会もあり、実り多い訪問となった。

 

◇  ◇  ◇

◆高校3年 ケビン・ルースさん(17) 資料館見学 体験談衝撃

 ウェストタウン校への訪問を実現したのは、高校三年のケビン・ルースさん(17)だった。約三カ月間にわたって、平和ミッションを招くための学校側への説得、計画作りを一手にこなした。熱意の背景には、昨年夏、広島市を訪れ、被爆者から証言を聞いた経験があった。

 「今日、これから聞くのは、日ごろは耳にしない犠牲者の歴史です」。ケビンさんは平和ミッションの発表を、級友たちにそう紹介した。

 ヒロシマとのかかわりは母子二代にわたる。母は元ラジオ記者のダイアナさん(57)。広島国際文化財団が主催した米国人記者招請計画「アキバ・プロジェクト」で一九八〇年に広島・長崎両市を訪れ、取材した。

 ダイアナさんは帰国後、被爆者の体験を描いた原爆劇を創作。地元オハイオ州で上演するなど、ヒロシマを伝える活動を続けてきた。現在は同州のオービリン大の学長補佐を務める。

 ケビンさんは昨年七月下旬から二十五日間、母と広島に滞在。原爆資料館の見学をはじめ、被爆者六人から体験を聞いた。「それまでの平和学習とは比べものにならない衝撃を受けた」と振り返る。「学校の中から一人でも多くの生徒が、広島を訪れるきっかけをつくりたい」とメンバーを招いた。

 ケビンさんは「今の米国の教科書に載っている原爆の写真は、何マイルも離れた安全な場所から撮ったきのこ雲の航空写真。一九五〇年代の教科書と同じなんです」と不満を漏らす。

 五〇年代の教科書では、原爆使用は技術の勝利であり、五十万人の米将兵を救ったと教えていた。「これは勝者の側から見た歴史観。原爆の影響による、人間への視点が奪われている」と当時の教育姿勢を非難する。

 しかし、ケビンさんの使う歴史の教科書もまた、原爆の記述はわずかだ。「天皇が降伏しようとしなかった点が強調されている」と言う。「核廃絶にはきのこ雲の下で何が起こったのかを、もっと学ぶ必要がある」と訴える。

 二日間にわたるメンバーによる平和授業を終えたケビンさんは「みんながこんなに熱心に聞いてくれるなんて、信じられない。ぼくの広島での経験を、みんなも追体験してくれた」と、成功に顔を上気させた。今夏も母と広島を再び訪問。被爆者の体験を基にした小説の執筆にチャレンジする。

【写真説明】真っすぐに視線を注ぎ、言葉を聞き逃すまいと村上さんの被爆証言に聞き入るウェストタウン校の高校生たち。質問も相次いだ

左下=「平和と正義」の授業中、第六陣メンバーに質問するケビンさん(中央)。一行のウェストタウン校訪問のおぜん立てをした


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