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被爆地で平和再認識 ユニタール広島事務所1年 '04/7/29

 「ヒロシマ効果」高く

 中四国地方で初の国連機関となる国連訓練調査研究所(UNITAR=ユニタール)が、広島市中区に広島事務所を開設し、一年を迎えた。ユニタールは、研修参加者が被爆地で平和への思いを新たにする「ヒロシマ効果」を強調する。一方、誘致した広島県が運営費を負担する契約は、来年度で切れる。将来の存続に向け、財政面を含む支援の輪を地元にどう広げるかが、課題となる。(平井敦子)

 財源確保 地元の支援 課題

 この一年でユニタールが開いた研修は五回。アジア・太平洋地域の三十五カ国から、指導的立場にある政府関係者や学者、企業のトップら約二百人が広島を訪れた。「紛争からの復興」をテーマにした初回は、イラクの主権移譲に取り組んだブラヒミ国連事務総長特別顧問も講師に加わった。ユニタール側は「議論の質、量ともハイレベルだった」と自負する。

 事務所に近い原爆資料館と原爆ドームの見学は毎回、日程に組み込む。七月初めの五回目の研修に参加したモルジブの政府研究員ミシェル・アハメドさん(28)は「被爆の実相は、想像できないほどひどい。帰国して報告したい」と言い残した。

 「創(つく)り出す平和」を掲げてユニタールを誘致した広島県も「ヒロシマから世界への平和のメッセージの発信につながっている」(国際企画室)と評価する。

 県は昨年七月の開設から三年間、年間百万ドル(約一億一千万円)の運営費全額を拠出する契約を交わしている。二〇〇六年度以降について、県は「経費の50%確保に努める」との方針だが、ユニタールは今後、財源の確保にむけた自助努力を求められる。

 当初、県は三分の一ずつの負担を、広島市と経済界に要請していた。しかし市は、個別プロジェクトへの支援金の名目で年間七百万円を拠出。経済界の負担も、広島商工会議所と中国経済連合会に加盟する百三十六社による年間一千万円にとどまる。県が目指した「地域ぐるみでの支援体制」は十分とは言えない。

 地元との「距離」を指摘する声もある。今月五日、ユニタール支援のため行政、経済界、大学、民間非営利団体(NPO)など十六団体でつくる「ひろしま平和貢献ネットワーク協議会」が開いた幹事会。「もっとユニタールを県民に知ってもらう工夫が必要だ」との意見が相次いだ。

 研修の中身は専門性が高く、一般にはなじみにくい側面がある。しかし、協議会メンバーの一人でひろしまNPOセンターの中村隆行事務局長は期待を込めつつ、注文する。「国際貢献を目指す県内の非政府組織(NGO)などとの交流の場をもっと設けてほしい。地元で支える機運も育つのではないだろうか」

 ユニタールが国連機関としてヒロシマでの営みを持続できるのか―。その鍵を握るのは、研修の充実と地元との連携による「発信と交流」の強化にほかならない。

 アジミ所長に聞く ―予想以上に研修生呼べた

 ユニタール広島事務所のナスリン・アジミ所長=写真=に、この一年の成果や課題などを聞いた。

 ―まず成果は。

 五回の研修では、質の高い議論が交わされ、活動の基礎もできた。広島県や県議会、広島市、多くの企業に多大な協力をいただき、感謝したい。

 ―広島に事務所を設置した効果は。

 被爆地である広島は、世界的に知名度が高く、講師や研修生を予想以上に引き寄せた。一方、宿泊、交通費などコストが高いのが難点だ。一部の研修は他のアジア諸国での開催も考えたい。

 ―県の運営費全額拠出は三年間ですが、その後の財源確保策は。

 より質の高い研修を実現し、日本政府や企業、財団など他の支援者を呼び込みたい。

 ―もっと地元へのPRが必要では。

 ユニタールは国連機関であり、研修を成功させることこそが私たちの任務だ。PRとしては研修ごとに、さまざまな機関に開催を案内している。広島商工会議所ビルにたなびく国連旗を知ってもらい、平和を希求するユニタールの活動を理解していただきたい。


●クリック ユニタール

 国連加盟国の外交官や政府関係職員らの研修機関として1965年に設立された。職員3人の広島事務所は、スイス・ジュネーブの本部、米・ニューヨークに続く第3の拠点で、アジア・太平洋地域の52カ国をカバー。この1年、紛争からの復興▽世界遺産の管理と保全▽開発資金のための外国直接投資▽海洋と人間の安全保障―などの研修プログラムを実施した。


【写真説明】上=ユニタール広島事務所がある広島商工会議所ビルでの研修。原爆ドームを間近に、参加者たちはヒロシマの体験にも触れた(5日、広島市中区) 下=ユニタール広島事務所のナスリン・アジミ所長


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