熊本地裁はきのう広島や長崎で被爆した熊本県の男女二十一人(うち六人死亡)の原爆症集団訴訟で、十九人を原爆症と認定した。この一年余り、認定基準をめぐる訴訟で国は六度の敗訴を重ねることになった。
しかし厚生労働省は依然、基準見直しに前向きな姿勢をみせていない。一方、被爆者に残されている時間は限られる。国会は行政まかせにしないで、被爆者の思いをくんだ認定制度の見直し、支援策づくりを急ぐ責任がある。
国は「DS86」と呼ばれる算定方式ではじいた被曝(ひばく)放射線量の推定値に「原因確率」を加味した認定基準を設けている。判決は、がんなどの原爆症における放射線起因性の判断について、国の基準は「あくまで一つの考慮要素にとどめるべきだ」と指摘。原告の被爆状況や被爆後の行動などを総合的に考慮する必要があるとした。
国は認定制度について「国際的に認められた基準で信頼できる」「科学的」との主張を繰り返した。対して原告側は、国の認定基準は「残留放射線を体内に取り込む内部被曝を考慮していない」などと反論してきた。
発症メカニズムが完全には解明されていない現状では、個々の症状を一つ一つ丁寧に検討していく手法の方が、説得力を持つように思われる。
その反映であろうか。今回の判決には糖尿病のほか、変形性関節症など運動機能障害の症状にも救済範囲を拡大することが盛り込まれている。全体として、これまでの五件の判決の流れを引き継いだ格好である。
原爆症認定制度の見直しへ、さらに一歩前進したと受け止めることができよう。原告側弁護団は「被爆者を切り捨てる認定制度に抜本的な見直しを迫る内容だ」とも述べている。しかし厚労省の今後の方針転換を呼び起こせるか、楽観はできないのも現実だ。
体力の衰えを日々感じている被爆者は、司法判断に沿った迅速な支援策の確立を待ち望んでいる。
参院選では、主要六党が被爆者対策を公約に盛り込んで有権者に訴えた。これまで積極的でなかった自民党も小委員会を設けており、八月下旬にも救済拡大策を取りまとめる予定という。
選挙が終わっても、公約を誠実に果たす各党の責任は消えない。国会は認定制度の見直しなどについて、超党派で協議していく場を設ける時である。
    
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