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【天風録】大石芳野写真展 '07/8/4
少年のうるんだ瞳が、まっすぐこちらを見ている。旧ユーゴのコソボで撮った写真。「ヴァドゥリンくん(9歳)の父親は目の前で銃殺され家も破壊された。教室でも思い出して涙が溢(あふ)れ出た」と説明がつく▲廿日市市のはつかいち美術ギャラリーできのうから始まった「大石芳野写真展 平和への思い」の一枚である。カンボジア、ベトナム、沖縄、広島、チェルノブイリ、コソボ、アフガニスタン…。写真家の大石芳野さん(63)は、現地に出かけて戦争や内戦などの傷跡と向き合ってきた▲大石さんがヒロシマをテーマに、初めてレンズを向けたのは一九八四年の暑い日。「ヒロシマのおかあさん」と呼ぶ一人の女性だった。写真集「HIROSHIMA 半世紀の肖像」は、被爆の傷あとに翻弄(ほんろう)されながら必死に生き続けてきた人たちの記録である▲写真展は「半世紀の肖像」に収められている七十九点と、コソボなどの子どもたち六十二点の計百四十一点。年老いて次々と亡くなっていく被爆者と、戦禍で一番先に犠牲になる子どもたちである▲大石さんが撮り続ける作品には、むごたらしい場面はない。戦乱に傷ついた人々の表情もむしろ穏やかだ。それがかえって戦争の理不尽さを浮き立たせてくれる▲「子どもに責任はない。すべて大人にある。子どもの表情はたくさんのことを訴えている。それを少しでも感じてほしい」。写真展の会場で大石さんのつぶやいた言葉が、胸に突き刺さる。

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