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【天風録】市民の絵 '07/8/6
青白い火を発し、暗闇に浮かび上がった人影、焼け落ちた家の跡に立ったままでいた白骨化した遺体…。色鉛筆や水彩など身近な画材で、原爆投下後の生と死を描いた記録。広島市中区の原爆資料館東館で公開されている「市民が描いた原爆の絵」である▲三十三年前に募集が始まった「原爆の絵」は、その後集めたものと合わせ、三千五百点余りが資料館に保管されている。今年の春には集大成の図録が出版されるなど、再び注目を集める▲いま展示されている五十点。三十代のときの「あの日」の体験を、九十歳になって寄せた人もいる。多くの絵に丁寧に書き添えられた説明文。語り継ごうとする切迫した思いが伝わる。一点一点の絵を時間をかけじっくり見る若者や親子連れが印象的だ▲これらの絵を見ていて、今は亡き広島出身の画家、丸木位里さんと妻の俊さんのことを思い出した。国内外で反響をよんだ「原爆の図」シリーズの作者である。十五年前、広島で位里さんの個展が開かれた時、夫妻から話を聞く機会があった▲「原爆の図」で人物などを描くのは妻、背景を描くのは夫という役割分担。「描いても描いても、上から位里が墨を流して、絵を消して…」と俊さん。穏やかな表情で座る夫妻の、激しい創作の葛藤(かっとう)を見た気がした▲位里さんは「描ける人間が描き残しておかねば」と語っていた。市民の絵と共通する継承への強い思いだろう。きょう「8・6」。

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