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【天風録】ヒロシマを聴く '07/8/7
平和記念公園で何人かに話を聴いた。8・6には毎年訪れるという広島市中区の女性(83)は「思い出さなければかわいそうです」と言った▲「皮がずるずるにむけて手のつけようがない学徒らしい男の人が次々に死んでいく。お姉さん、と私を呼びながら」。当時の陸軍被服支廠(ししょう)(南区)での記憶だ。父と妹二人は行方不明。焼け跡を毎日捜し回って髪が全部抜けたほどだが、とうとう見つからなかった▲男手がなく心細かったこと、畑のカボチャを盗んだこと。その後のつらい話も合わせて、この季節になると誰かに話したい。しかし原爆に遭っていない人には通じないと思うから、黙っている。「でもきょうは聴いてもらってすっとしました。よかった」▲やはり毎年訪れる西区の男性(67)は一家で経営していたラムネ工場とともに父母、祖父母、兄の五人を失い、孤児になった。引き取られた親類では「どうしてよその子を見にゃいけんの」という夫婦げんかが目の前で繰り広げられた▲「餌をもらう犬のように、人の顔色をうかがいながら生きていた。ノーが言えずに、心は石になっていた」。高校生で映画「太陽の季節」を見て知る。そうか、グレてもいいんだ。徐々に縛りが解けたという▲聴いてくれる人がいて初めてあふれ出る話がある。聴こうとする人がいて初めてすくい取られる心の内もある。「お聴きしてもよろしいですか」。夏のヒロシマはそんな声掛けができる出会いの場でありたい。

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