広島はきのう、被爆から六十三年となる原爆の日を迎えた。平和記念式典には国内外から約四万五千人が参列し、平和記念公園は終日鎮魂の祈りに包まれた。
秋葉忠利広島市長は平和宣言で「核兵器廃絶に必要なのは、子どもたちの未来を守るという強い意志と行動力だ」と訴えた。核拡散が心配される中、核兵器のない平和な世界を目指すヒロシマの決意をあらためて確認したい。
宣言で、秋葉市長は核兵器廃絶を求める主張は今や多数派だとして、都市連携による運動の推進を強調した。市民が都市単位で協力し人類的課題を解決できるのは、都市が世界人口の過半数を占め、軍隊を持たず、相互理解と信頼に基づく「パートナー」の関係を築いたからだとしている。
広島市や長崎市が主導する平和市長会議は、加盟都市が二千三百六十八に達した。二〇二〇年までの核兵器廃絶という目標に向け、その具体的な道筋を示した「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を提案。一〇年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、各国政府による採択を目指している。
二十一世紀は市民が力を付け、都市が立ち上がれば、国際政治をも動かせるとの考え方が骨格にある。対人地雷やクラスター弾の禁止条約成立でも、市民や非政府組織(NGO)の力が国を大きく動かしたのはよく知られている。
核軍縮でも同じことができないか。日本政府に主導的役割を求めるとなれば、核の傘に依存する政策を変えさせることが鍵となりそうだ。百五十八市町村にすぎない国内の加盟都市を増やし、市民を巻き込むなどして機運を盛り上げることも必要である。
平均年齢が七十五歳を超えた被爆者に対する援護の充実策では、とりわけ原爆症認定をめぐる問題が急がれる。基準見直しの要望に国は応じたものの、その後も各地の集団訴訟では敗訴が続いており、司法判断との著しい乖離(かいり)が生じているからだ。
広島を訪れた福田康夫首相は「認定について判断する審査会委員に司法関係者を増員する」との考えを示し、国の基準と司法判断の溝を埋めることを約束した。
ただ、「被爆者代表から要望を聞く会」では、基準の再見直しや原告全員の一括認定を求める要望に対して、対応の遅れを認めたものの、「改定で認定者数は大幅に増えた」「一人一人の実態を踏まえて審査している」などと答えるにとどまった。
聞く会では首相の政治判断を一部期待する声もあっただけに、被爆者側には何とも歯がゆい発言だっただろう。この問題を早期解決するためには、せめて高裁段階で敗訴した分については上告しないのが筋ではないか。
米国の核の傘への依存についても、首相は「日本の周辺には核保有国があり、わが国の安全を考えるとやむを得ない」と従来通りの見解を会見で述べた。核のない世界を求め、もっと踏み込んだ姿勢がほしい。
    
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