中国新聞社
【天風録】ヒロシマの声 '10/8/2

米国で「ヒロシマの声は届いていますか」と尋ねた。すると「日本政府にこそ届けて」と軍縮の専門家に切り返されたという。おとといの国際シンポジウムで、本紙の金崎由美記者が報告した情けなくも、考えさせられる話だ▲オーストラリアのエバンズ元外相は昨年5月、「日本は核兵器が大好き」と皮肉った。生物化学兵器などの脅威を念頭に、核の先制使用の選択肢は何としても残したい。「核の傘」にしがみつく日本外交が核軍縮の足を引っ張っていると言うのだ▲昨秋の政権交代後も、この分野での官僚の力は強い。岡田克也外相が先月、核軍縮の有識者懇談会を設けたのもその対抗策だろう。一方で、菅直人首相の諮問機関は非核三原則の見直しを近く求めるという。安全保障についての政治主導が見えない▲見過ごせない動きもある。政府はインドに原発関連の機器を輸出できるよう原子力協定の交渉を始めた。核拡散防止条約(NPT)に加盟しない核保有国への輸出はNPT体制を崩しかねない。野党時代に民主党も反対していた▲先日の会見で、成長著しいインドへの輸出拡大を説いた菅首相の感覚を疑う。ビジネスのために被爆国の責務を置き去りにするのか。6日の平和記念式典に臨む首相にこそ、ヒロシマの声を届けねば。


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