氏原さん ―通勤利用 夢が膨らむ
坪井さん ―船着き場 昔の遊び場

会場のそばを走る雁木タクシー。潮が引いた河原で親子が遊ぶ
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原爆ドーム下の雁木
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藻谷 今日は、川でいろんなことをやっている人たちの話を聞きながら、広島のきれいな川と公園をどう使ったらいいかを考えたい。まず、雁木(がんぎ)って知ってますか。
(会場から)呉高専講師佐々木卓也さん(49)=佐伯区 右手に見える、川に下りる階段をいう。鳥の雁は、飛ぶ時にV字型の鍵状になりますね。川岸の斜面に、雁が行くように木を置いたのが始まり。木はよく腐るので、この辺りだと、江戸時代初期の福島正則の時代から、石造りの雁木が出てきて、太田川、特に旧七本の川は雁木の一部が多く残っている。
藻谷 雁木は船着き場ですね。干満の差があっても、寄り付きやすいよう工夫してあるわけですね。
坪井 雁木は、幼いころの遊び場の一つ。元安川で泳ぐと、足が砂地に引っ掛かって、シジミやカワエビがぶあーっとわいてね。誰かが川に落ちたら石垣では助けるのが難しい。雁木を使って救助したこともあるわけですね。いろんな意味で懐かしい、有効な物だった。
藻谷 今日は、雁木を使って面白い取り組みをしている人に来てもらいました。雁木タクシーに乗ったことのある人がいますか。
(会場から)広島工業大大学院一年西鶴英之さん(22)=中区 JR広島駅近くからFF会場まで乗ってきた。二人で二千円だった。
氏原 調べると、広島市内には雁木が三百ある。これを使わない手はないぞと運航を始めたばかり。広島の川は最大で一日四メートルもの干満差がある。今この時間帯(大潮の干潮時)に乗り降りできる場所は三カ所しかない。満潮時は、すべてで乗り降りできる。不定期航路でお客さんを乗り降りさせる申請を、運輸局に出している。今は一艇で、五月末には三艇になる予定。橋やビルの上から手を振ってもらって、コミュニケーションが取れる。二十分、千円の基本料金で、広島駅から原爆ドームまでは保証する。
藻谷 どうやって呼ぶんですか。採算は?。
氏原 電話をもらって、迎えに行くという形態を取っている。運航できる時間帯は満潮の前後五時間ぐらいなので、大もうけにはならない。できる範囲で、あるものを使ってやろうと始めた。船長も「実費が出れば楽しいからいいよ」とおっしゃっている。今は燃料代も出てないけども。もうけはなくても、自分たちが納得できる収入が得られれば続けたい。宣伝不足でお客さんは少ないが、船を持っている船長さん仲間がどんどん集まっていて大変うれしい。
藻谷 なぜ雁木タクシーにかかわるようになったのですか。
氏原 私は五年前に広島に来て、川がすてきなのに驚いた。さくがなくて、しかも下に降りる階段がある。東京、大阪では考えられない。そんな時、広島県と広島市が進める「水の都構想」を手伝う機会があった。多くの人が十数年前から水上交通を議論して、いろいろな試みもあったことを知った。ただ、常に干満差がネックになって、ヘドロのしゅんせつや桟橋建設には何十億円かかるとか言って議論が止まる。私たちは、もともと船着き場として使っていた雁木をなぜ使わないのかなと。「やればいいのに」で終わっちゃいけないと思い、「やろっか」とかかわった。通勤の足に使う構想も膨らんでいる。