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原爆症訴訟全員救済へ 原告に喜びと不安 '09/8/6

 ▽「ヒロシマの声 届いた」「実態に沿えるのか」

 原爆症認定をめぐる集団訴訟で、政府が原告を全員救済する方針を固めた5日、原告団や支援者の多くは喜びをにじませた。ただ、審査基準の改定の行方に不透明さも残る。「高齢化する被爆者の実態に沿った内容となるのか」との不安も漏れた。

 「被爆者の声がようやく政府に伝わった。原爆の日を前に英断を示してくれた」。広島県被団協の坪井直理事長(84)は安堵(あんど)する。もう一つの同県被団協の金子一士理事長(83)も「高齢化した被爆者をこれ以上待たせてはいけない。早期解決を受け入れたい」と述べた。

 広島の支援者でつくる「原爆訴訟を支援する会」などは5日、広島市中区で原告や弁護団を招いて集会を開いた。広島弁護団は「あすには、一括解決の方針が正式に示される」などと説明した。

 初提訴から6年。この間、原告306人のうち68人が亡くなった。一審で勝訴し、広島高裁で係争中の大江賀美子さん(80)=広島市佐伯区=は「やっとか、という思い。国民の命を守るべき国と裁判で争い、悔しい思いをしてきた。うれしいと同時に、ほっとした」。これまでの苦悩を振り返った。

 政府が決断に追い込まれた背景には、集団訴訟の「19連敗」がある。厚生労働省は爆心地からの距離に基づいて被爆者が浴びた放射線量を算出、認定してきた。しかし、司法はことごとく「機械的な線引きで、被爆者の実態を反映していない」と指摘。厚労省は昨年4月と今年6月、審査基準の緩和に重い腰を上げた。

 広島弁護団の二国則昭事務局長は、政府の決断について「認定すべき疾病を認定してこなかった不適切性が司法で示され、衆院選を前に政府が追い込まれた結果だ」とみる。全国弁護団の宮原哲朗事務局長も「争い続けた国の姿勢は問題。国にはきちんと謝罪してもらいたい」と訴える。

 国が今後、解決すべき課題も少なくない。司法が原爆症と判断した疾病を審査基準にどう反映するのか、約7600件が滞留している「審査待ち」をどう解消するのかなどだ。

 佐々木猛也団長は「議員立法による救済も担保はない。一括解決ですべての問題が片づくわけでない」と強調している。(東海右佐衛門直柄、漆原毅)

【写真説明】政府の一括解決方針を受け、訴訟を振り返る原告の大江さん(右)


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