一行はイスラマバードで、元カイデ・アザム大学院大教授(物理学)のアブドゥル・ナイヤーさん(60)から、カーン博士が築いた国際的な「核の闇市場」などについて話を聞いた。
ナイヤーさんは、パキスタン政府が示した「カーン博士の個人的な犯行」との見解に対し、「パキスタンという国家において、個人が私腹を肥やすために軍事機密を漏らすのは不可能。政府は分かってやったと思う」と説明。
核実験によって国際社会から経済制裁を受け、経済状態が悪くなった政府が「他国に核技術を売ることで財政確保を目指したのではないか」とみる。
「核技術や核物質が拡散すれば、国家だけでなく、テロリストなどの手に核兵器が渡り、使用される可能性も考えられる」。ヒロシマ・ナガサキの新たな出現を懸念するメンバーに、ナイヤーさんはうなずいて言った。
「非国家であっても強い意志と技術、部品、必要な核物質があれば製造は可能だ。科学者の中にはイスラム原理主義に強く共鳴している者もいて、必要な資材を渡さないとも限らない」
さらに、南アジアで核戦争が十分に起こり得る可能性を強調する。
ナイヤーさんは、核実験後に開いた反対集会で、会場に乗り込んできたイスラム原理主義者に殴られた経験がある。当時はイスラム主義政党支持者をはじめ、圧倒的市民が実験を支持した。
あれから七年。市民の間に核保有への反対意見は「増えている」と言う。しかしこの間、印パ両国はカシミール紛争を契機に何度か大隊が国境近くに終結するなど、一歩間違えば核戦争に至りかねない状況を迎えた。
「相互の憎しみは今なお強い。核開発はさらなる貧困を生み、強硬派や原理主義者の台頭を強めている」。ナイヤーさんの言葉には危機感がにじんでいた。
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