日本

原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)

(08年11月17日)

◆学芸員 岡村幸宣

 広島市出身の水墨画家丸木位里(1901-95年)と妻で油彩画家の俊(1912-2000年)は、被爆から数日後に入市し、惨状を目にする。2人は死者たちの肉体と精神の痛みを、高さ1.8メートル、幅7.2メートルの大画面に表象することを決意した。「原爆の図」の誕生である。

 丸木夫妻は体験者から被爆当日の様子を聞き、自身や周囲の若者たちをモデルに裸体デッサンを繰り返した。「原爆の図」の反響は大きく、展覧会は日本全国を巡回。多くの声に後押しされ、新たな証言が寄せられるたびに、2人の連作は続いた。世界20カ国以上で巡回展を実施。30年間で全15部の「原爆の図」を完成させた。

 「原爆の図」は、被爆を体験した人びとの無数の記憶が、丸木夫妻の絵筆を通して幾層にも織り込まれた芸術作品だ。絵を見る者は、目の前に焼け跡の街がひろがる錯覚におちいり、想像力を働かせる。

 晩年の丸木夫妻は、加害と被害が複雑に交錯する戦争の実相を見つめ、「真の平和とは何か」を問いかけながら「南京大虐殺の図」「アウシュビッツの図」「水俣の図」などの巨大壁画を描き続けた。

 当館では、2人の大作とともに、70歳を過ぎて色彩やかな自然賛歌の絵を描き始めた位里の母、丸木スマの作品を展示。年5回ほど企画展を開き、さまざまな視点から戦争や命の問題を考え続けている。

 美術館の横を流れる都幾川(ときがわ)は、位里が「故郷の太田川に似ている」と愛した風景だ。わたしたちは毎年8月6日夕に「ひろしま忌」を行い、この川にとうろうを流す。時間と距離を超え、ヒロシマとつながる瞬間である。

住所 埼玉県東松山市下唐子1401
電話 0493-22-3266
ホームページ  http://www.aya.or.jp/~marukimsn
休館日 月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始、ゴールデンウイーク(夏期は無休)
入館料 一般900円、18歳未満・中高生600円、小学生400円、その他割引有り

(2008年11月3日朝刊掲載)

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第8部「救出」を見る女子高生。常設展では「原爆の図」1-14部を展示している


第2部「火」と第3部「水」


第7部「竹やぶ」と第8部「救出」


原爆の図丸木美術館の外観