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首相発言に被爆者失望 認定問題「ゼロ回答」 '08/8/7

 六日、広島市の平和記念式典に参列した福田康夫首相。国の敗訴が続く原爆症認定集団訴訟の解決に向けた発言があるのでは、と被爆者側の期待は膨らんでいたが、認定制度の若干の手直しを表明するにとどまった。解決への具体策は時期も内容も示さないまま、被爆地を後にした。(道面雅量)

 「実質的にゼロ回答。この程度の制度手直しに意味があるとは思えない」。中区のホテルであった「被爆者代表から要望を聞く会」を傍聴した日本被団協の田中煕巳(てるみ)事務局長は、失望をあらわにした。

 福田首相が言及したのは、原爆症の認定審査をする厚生労働省医療分科会への「司法関係者の増員」。分科会は現在、医学や放射線学の専門家ら二十七人の委員で構成し、司法関係者では元裁判官の公証人が一人いる。

 集団訴訟での国の連敗を受け、「司法と行政の隔たりを埋める」意図での増員という。ただ、原告側が求めてきた委員の入れ替えや、積極認定する病気の範囲の拡大など抜本的な見直しとの隔たりは大きい。

 昨年八月、広島入りした安倍晋三首相(当時)は被爆者との面会で「認定制度の見直し」を表明、基準の大幅緩和につながった。それから一年の原爆の日。「今回も何かある」との期待は大きかった。与党の被爆者対策プロジェクトチーム(PT)の一人は「首相発言は踏み込みが足らない」とこぼした。

 福田首相が五日に広島入りする直前、与党PTの河村建夫座長(自民、山口3区)は官邸を訪ねた。認定基準の再改定など、訴訟の解決に向けた対応を首相に申し入れた。

 当初は民主党なども含めた超党派議員団での訪問を目指していた。だが、官邸サイドが難色を示し、結果的に座長単独での訪問になったという。広島では踏み込んだ発言はしないのでは―。そんな見方は、前日から広がりつつあった。

 福田首相は六日の会見で「認定基準については、既に相当な対応をした」とも強調した。今以上の対応に踏み込むかどうか、政府としての方針が固まらない証しとも見える。

 首相は一方で、原爆資料館や原爆養護ホームを積極的に訪問した。首相としては七年ぶりの出席となる「要望を聞く会」でも熱心に耳を傾け、誠意も印象づけた。

 与党PT内には「首相は『被爆者の話をよく聞いてから解決策を考える』と言った。九日に長崎で被爆者と会って、何らかの対応を打ち出すのでは」と期待する見方もある。

 被爆者の高齢化が進む中で、早期解決に向けた政治決断を求める声は強まる一方だ。首相の熟考の結果はいつ出るのか―。被爆者たちは常に注視している。

【写真説明】倉掛のぞみ園を訪れ、笑顔で入園者に声を掛ける福田首相(右)。左は舛添厚労相(撮影・今田豊)


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