中国新聞オンライン
中国新聞 購読・試読のお申し込み
サイト内検索
あせぬ記憶 次代へ 8・6ドキュメント '08/8/7

 原爆投下から六十三年がたった六日、広島市内では犠牲者を悼み、平和の尊さを訴える取り組みが続いた。記憶を語り、次代に託す被爆者。継承を誓う若者たち―。心を一つにして、平和の願いを新たにした。

 「あの日」を彷彿(ほうふつ)させるような暑い一日、平和記念公園やその周辺に立ち、高齢の被爆者、遺族、若者ら、そこに集まる多くの人々の姿を追った。

 0・00 原爆ドーム前に若者が集う。和歌山県御坊市の消防士小竹健太さん(25)は「命にかかわる仕事をしていると、広島を訪れてみたくなった」。

 1・35 原爆の子の像前で、中区の音楽家山本優一郎さん(34)は、慰霊の思いを込めた自作の曲の譜面で折った鶴を供えた。「今日に限らず、平和を願って発信するのは広島の人間の責務」

 2・00 「殺し合いや戦争、やっちゃだめなのにどうしてするの」。慰霊碑前の参列者用いすに座る千葉県船橋市の主婦三浦和子さん(74)は強調した。

 3・40 「命の大切さを伝える新聞記者になりたい」。京都市の大学四年入江紫織さん(21)は、慰霊碑前で手を合わせていた老夫婦の姿が胸に残る。

 4・25 安芸区の安芸南高放送部は取材で訪れ三年目。一年岡本はづきさん(16)は八月六日生まれ。「何かの縁。お参りする人の様子を映像で伝え平和の尊さを訴えたい」

 4・50 「六十三年たっても、あの惨劇は忘れられない」。慰霊碑前で、親族五人を失った安佐南区の主婦広桝ミスエさん(83)は手を合わせた。

 6・45 平和記念式典で演奏する市内の中、高校の吹奏楽部員がスタンバイ。基町高三年衣松孝祐君(18)は「音楽を通じ、戦争の恐ろしさや平和の大切さを感じてほしい」。

 8・00 中区の基町環境護岸で、広島大漕艇部の五人が元安川に慰霊の花束を流すため、ボートに乗り込んだ。中溝由布次主将(21)は「広島の大学に入ったのだから、何か活動したかった」。

 8・15 中区の気温は二八・四度。爆心地の島外科前に集まった約十五人は上を見上げ、目を閉じた。さいたま市の会社員森すぐるさん(42)は「ここは式典に比べて静かで、本当の平和をゆっくりと考えることができる」。

 8・20 ドーム前で、札幌市の主婦沼田雅世さん(42)が娘(14)とダイイン。「原爆について知る限りのことを思い出して、悲しくて涙が出た」

 8・45 爆心地の碑の前。静岡県磐田市の会社員石田恵さん(35)は出張で初めて広島を訪れた。「偶然にも、慰霊の日に広島を訪れたことに、巡り合わせを感じる」

 9・00 式典に参列した名古屋市の会社役員吉原桂子さん(67)。被爆体験を基に松の種子を使った健康食品の開発に生涯をささげ、昨年七十五歳で亡くなった夫将純さんの遺影を抱き、研究の継続を誓う。

 9・05 原爆の子の像には、千羽鶴を届けに多くの人が集う。「平和への思いが強くなった。帰ってから伝えたい」。新潟県胎内市の中学校四校を代表して届けた斎藤優輝君(14)。

 10・00 原爆の子の像そばで、神奈川県逗子市の社会風刺漫画家橋本勝さん(66)が、自作の絵本を基にした紙芝居を上演。「戦争のない世界には憲法九条が大事」

 10・40 資料館の折り鶴コーナーで、米テネシー州出身の英語教員ケビン・ジェミソンさん(28)=奈良市=は「佐々木禎子さんの話を聞いて、悲しかった」と鶴を折った。

 11・40 古式泳法グループが元安川で泳ぐ。

 12・15 資料館東館にある地球平和監視時計。あの日から二万三千十一日。最後の核実験から六百六十七日。長男(6)と見上げていた南区の主婦田戸恵理さん(32)は「原爆を扱うニュースが減っている。被爆体験が少しずつ風化しつつあるのでは」と懸念。

 14・15 最高気温三五・八度を観測。今夏最高の暑さ。

 15・50 入館者で込み合う資料館。京都市の大学二年島田周さん(22)は「原爆投下が実際にあったことだと再認識できた」。

 16・30 富山県射水市の会社員福岡悦夫さん(49)は一九九四年に亡くなった父親の遺影を国立広島原爆死没者追悼平和祈念館に登録した。「悲劇を語り継ぐためにも、少しでも多くの記録を残していかなくてはならない」

 18・15 色とりどりの灯籠(とうろう)が浮かび始めた元安川。横浜市の小学四年大須賀成実さん(9)は「平和な世界になりますように」と黄色の灯籠に書いて流した。(久行大輝、安部慶彦、和泉恵太、山本祐司、山田祐)

【写真説明】<左>流れ献花で原爆慰霊碑に向かう人波。慰霊碑は一日中、香煙が絶えない=午前9時(撮影・室井靖司)<右>手作りのキャンドルを置き、原爆ドームを見詰める女性。ドーム前は祈りと核兵器廃絶の願いがあふれた(午前4時40分)


MenuTopBackNextLast