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久間発言を問う<上> 日本被団協代表委員 坪井直氏(82) 人命の軽視情けない '07/7/2

 原爆投下を「しょうがない」とした久間章生防衛相の発言は、被爆地広島に波紋を広げた。一夜明けて自らが事実上撤回したとはいえ、平和と国民の安全を担う現職閣僚の「原爆投下正当化論」が投げ掛けた衝撃は大きい。今回の発言をどう受け止めるか、被爆者や識者らに聞く。

 ―現職閣僚、とりわけ自衛隊を管轄する防衛相の発言をどう受け止めましたか。

 開いた口がふさがらなかった。米国を訪ねた際、市民から同じような原爆肯定論を何度も聞いた。大勢の人を殺しておいて「しょうがない」はないだろうと、ずいぶん腹が立ったが、ねばり強く説得を重ねてきた。原爆を投下した側が自分を正当化する理屈を、防衛相が自身の考えとして表明するのはおかしい。

 ―与党内からも批判が出て、防衛相は発言を事実上撤回しました。

 閣僚の認識として論外の発言だった。撤回は当然だが、そこに至るまでの発言にも、ぶれが目立った。核兵器をめぐる問題に、信念のなさを感じる。

 ―米国流の原爆肯定論が閣僚の口から飛び出した背景をどう見ますか。

 日本政府がイラク戦争や集団的自衛権の問題で米国に追従するあまり、原爆の影響を過小評価する米国政府の考え方が染みついたのではないか。原爆の犠牲になった人たちの命の重みを理解していない証拠だ。国民の命を軽く見る人が防衛相を務めている現実は恐ろしい。

 ―久間防衛相は長崎2区選出の衆院議員です。被爆者の声が届いていないのでしょうか。

 人間としていかがと思う。支持者や知人の中にも原爆で家族を失った人がいるだろう。長い政治家人生で何をくみ取ってきたのか、疑問を感じる。

 ―政府や自民党幹部から「核武装の議論を」などの発言が相次いでいます。何を感じますか。

 核兵器や戦争の恐ろしさを知らない人たちが勝手なことを言う。共通しているのは人命の軽視。「国のために命を投げ出せ」という戦前の考えに近い政治家が、刺激的な言葉を繰り返している。非核三原則の空文化や、安倍晋三内閣が進める集団的自衛権の容認に向けた議論も、この延長線上にあると感じている。

 ―発言を受け止める私たちの意識はどうでしょうか。

 一昔前なら閣僚の進退に発展するような発言でも、最近はさほど問題にならない傾向を感じる。受け止める国民の側に、「なれ」がありはしないか。積み上げてきた平和への努力がなし崩しになる危機感を持つべきだ。

 被爆者にも同じことが言える。被爆者は核兵器の非人道性を国内外で訴えてきた。しかし外国はおろか、日本政府の中枢にいる政治家にも浸透していないことが今回、よく分かった。情けない。今こそ、まず身近な足元に自分の訴えが届いているかどうか、考えてみる必要がある。(石川昌義)

【写真説明】「人の命を軽く見ている」。久間防衛相の発言に「危機」を覚える坪井氏


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