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久間発言を問う<下>NAC元大使 吉清由美子氏(28) 被爆の痛み共有必要 '07/7/4

 米国の原爆投下を「しょうがない」と発言した久間章生氏が防衛相を辞任する事態となった。その米国で被爆体験や日本文化を伝える草の根活動「ネバーアゲインキャンペーン(NAC)」に携わった吉清由美子さん(28)=広島市安芸区=にとって久間氏の発言は、米国で接した言葉とも「二重写し」になる。そうした正当化論に反論していくには、「原点」に立ち戻るしかないと訴える。

 ―発言から三日、久間氏の防衛相辞任をどう受け止めましたか。

 「海外の人は被爆の実情を知らないから原爆投下を肯定する」と思い、私は「知ってもらう」努力をしてきたつもり。でも今回の発言で「被爆国の人が肯定するなら、原爆投下は正当なこと」と考える人も出てくる。一度言ったことは取り返しがつかず、辞めて済む問題ではない。発言で傷ついた被爆者や、核兵器廃絶を真剣に望んで活動してきた市民の心は元に戻らないと思う。

 ―発言を聞いた時、何を感じましたか。

 びっくりした。長崎選出の国会議員で、被爆者の話を聞いたり写真を見たりした経験はあるはず。なのに、痛みが分かっていない、自分の問題としてとらえていない。原爆投下は大量殺りく。例えば殺人事件の遺族の人に同じことが言えますか。あまりに想像力が欠けている。

 ―米国では、原爆投下は肯定されますね。

 「戦争を早く終わらせるために、一発目の広島は仕方なかったが、二つ目は許せない」と言う人が多かった。私は、一発目も正当化されはしないと伝えるために頑張ったつもり。旧日本軍の侵略行為などを引き合いに「仕方ない」という人もいる。もちろん侵略も許されないが、だからといって原爆を落としてもいいとはならない。「北海道が占領されずに済んだ」なども理由にならない。

 ―米国で具体的に、どう伝えたのですか。

 「遠い国の人ごと」と思われない工夫をした。学校などを回り、記録映像を見せながら話をした。でも米国の子どもたちにとって、ビデオに映る被爆者は遠い存在。だから、出発前に私自身が被爆者に会って一緒に撮った写真を見せたり、託されたメッセージを伝えたりした。私の知り合いだと分かると、子どもたちも親しみを持ってくれた。どこかの誰かではなく、身近に感じてもらう努力をした。

 ただ被爆体験を世界に発信するには、まず、日本国内の人が「知らないでは済まされない」と自覚する必要があると思う。小さな子どものうちから、平和な心をはぐくむ環境づくりが必要。理論ではなく、被爆者の声を心に訴えかける取り組みが欠かせないと思う。

 今回、普段は原爆や平和問題に関心がない友人も「あの発言はいけん」と怒っていた。発言を教訓に、多くの市民が感じた怒りや疑問を大切に、被爆体験に寄り添い、考えてもらう。そんな契機にしたい。(森田裕美)

【写真説明】「発言に抱いた怒りや疑問を忘れず、被爆者の痛みに寄り添うきっかけにしたい」と話す吉清さん


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