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首相の「有言実行」注視 '07/8/6

 【解説】安倍晋三首相が被爆者との直接対話の場で、原爆症認定基準の見直し検討を明言した。「早期に制度を変えるには、政治決断しかない」という被爆者の悲願に応え、これまでの発言から一歩踏み込んだ。今後、厚労省の抵抗や予算枠という現実問題を超え、どこまで認定制度を変えられるかが問われる。

 党政務調査会で認定制度見直しの方向性を検討している自民党は、九月にも議論の場を与党プロジェクトチーム(PT)に格上げする。自民党の「原爆症認定を早期に実現するための議員懇談会」(河村建夫会長)の寺田稔衆院議員(広島5区)は今回の首相発言を「与党協議の加速につながる」と評価する。

 新たな基準を検討する際の基本方針として、安倍首相は「専門家の判断のもとに」と語った。自民党議員懇は「厚労省だけでなく、法律家、被爆者治療に携わる医師、そして与党PTの議論も踏まえる、という意味だ」として歓迎する。

 今後は、残留放射能や遠距離被爆の影響を切り捨てている現行基準について、「科学的知見に基づく」と主張してきた厚労省側の抵抗をどう抑えるかがハードルとなる。

 小幅な改善にとどまれば、被爆者は「新たに別のしゃくし定規ができただけ」と失望するだろう。被爆者らの間で安倍首相の発言に複雑な受け止めがあったのも、「本当に変えられるのか」との疑問や、「いつ、どう変えるかが問題」との警戒感が背景にある。

 七月の参院選で与党は惨敗し、安倍首相は早期に内閣を改造する意向。政局の混乱により、原爆症認定問題の解決が停滞してはならない。参院選で「被爆者援護充実」を公約に掲げた民主、共産、社民、国民新など各党にも、問題解決への参画が求められる。

 老いが進む被爆者は、安倍首相が「有言実行」するかを厳しく注視している。(金崎由美)


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