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31字の記憶 元教員河野さん、短歌で「慰霊式」 '07/8/7

 ひた祈り/なおも祈りて/忘るまじ/友ら灼(や)かれし/今日原爆忌

 元育成所教員の河野千代子さん(84)は、広島市東区の自宅で、尽きぬ思いを短歌に込めた。二十二年前から続ける自分なりの慰霊式。

 「毎年この日は、胸が震える」。原爆でしゅうとめや友を亡くした。戦後は育成所で、親を奪われた孤児らの悲しみや怒りをつぶさに見てきた。

 短歌との出合いも育成所だった。時々、大学教授らを招き文化講座を開いていた。講師の短歌誌主宰者に一首を求められた。考えあぐね、題材を育成所の日常に求めた。

 久々に/心和みて/過ぎんとす/明日のひと日も/今日の如(ごと)くに

 終戦翌年の五月のこと。食料は足りず、子どもの気持ちは不安定。ドタバタな毎日のうち、この日は珍しく平穏だった。その喜びを詠んだ。

 六十二歳の時、友人に誘われた短歌教室。自然と口をついたのは、育成所でのあの一首。以来、何げない日常をつらつらと。折を見て、育成所での記憶をひもとき、筆をとる。

 あの時代と違い、平穏が当たり前の現代。「でもね」と河野さん。「幼い子どもがなぜ育成所に入ったのか、その原爆の悲惨さを伝えなければいけないのよ」。三十一文字に記憶が詰まる。思いが凝縮する。(下久保聖司)

【写真説明】「平和の大切さを伝えたい」と、31文字で訴える河野さん(広島市東区の自宅で)


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