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認定見直し急いで 被爆者、首相へ厳しいまなざし '07/8/7

 参院選惨敗後も続投を決め、六日の平和記念式典に初参列した安倍晋三首相。原爆症認定基準の見直し検討を表明し、晴れやかな表情で会場に。「口だけじゃいけんよ」と冷静なまなざしを向ける被爆者たち。「平和を守れ」と、憲法改正を公約に掲げる若きリーダーにヒロシマの願いを投げ掛けた。

 「憲法の規定を順守し(略)非核三原則を堅持していく…」。原稿に視線を落とし、淡々とあいさつ文を読み上げた安倍首相。「いいことをおっしゃる」。父を原爆で失った福山市の無職花木昌子さん(70)が聞き入った。原爆症認定の見直しについても「一歩前進」と評価する。「ただ、急いでもらわんといけんのよ。苦しんでいる人も、先が短い」と注文を付けた。

 一方、安佐北区の被爆者女性(73)は「選挙に負けたばかりで、人気取りに来たんじゃろう。あいさつも早口で棒読みで聞きとれんかった」と手厳しい。

 式典の最中、会場近くからシュプレヒコール。原爆投下を「しょうがない」とした久間章生前防衛相発言などに抗議するデモ行進だ。すれ違った安佐北区の無職女性(73)は「大声のデモは慰霊の日に似合わない。ただ、安倍首相が憲法を変えたら怖い」。両親と姉二人を原爆で亡くした体験から、改憲に意欲的な政治姿勢には危うさを感じる。

 中区の被爆者、北村冨美枝さん(81)も六十二年前のあの日を振り返る。「地獄のような光景は、心から一生離れない。戦争はいけん、核もいけん。若い人のためにも平和憲法を守って」

 式典が終わり、安倍首相が席を離れようとすると激励が飛んだ。「頑張ってください」。別の声が重なる。「しょうがない発言は許されませんよ」

 その後、会場内で記者会見。あらためて認定基準の見直し検討に触れたが、警察官らに囲まれ、参列者には安倍首相の表情は読み取れない。午前九時、足早に車に乗り込み広島空港へ。平和記念公園にいた滞在時間は正味一時間―。

 車を見ていた被爆者女性(73)がつぶやいた。「すぐに帰ってしまって、結局はよそごとなんかね。資料館でも見ていけばいいのに」(木ノ元陽子、平井敦子)

【写真説明】安倍首相に被爆者たちは、期待と不安が入り交じるまなざしを向けた


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