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8・6ドキュメント 継承の営み、永遠に '09/8/7

 「原爆の日」の6日、広島市内では犠牲者を悼み、平和を願う取り組みが相次いだ。64年前の記憶を明かす被爆者。その証言を受け止め、次代につなごうとする若者たち。思いを重ね、核のない未来を誓い合った。

 年老いた遺族、平和学習する子ども、外国人…。平和記念公園やその周辺にはさまざまな人々が集った。一日を追った。

 0・00 原爆ドーム前のベンチで、金沢市の金沢大1年庄司健太さん(18)が元安川を見つめていた。「日本人として被爆地を見なきゃいけないと思った。遠い話のように感じていたが、ドームを見て原爆の威力に驚いた」

 0・30 小雨が公園一帯をぬらす。夜明けまで降ったり、やんだりを繰り返した。

 1・00 南区の飲食店従業員粟屋祐佳さん(30)が花束に折り鶴を添えて、原爆慰霊碑に手向ける。「米国での短期留学中、外国人がいかにヒロシマに注目しているかを知った。若い世代は、伝承者の自覚を持たなければ」と言葉を強める。

 3・15 「来月から証言活動を始める」。安佐北区の被爆者、岡田昭典さん(81)が原爆慰霊碑に誓った。「差別などを恐れて被爆者であることを隠していた時期もあった。でも、証言者は減っていきよる。まずは子どもや孫に伝えんと」

 5・05 福山市の上田町子さん(40)ら家族6人が原爆慰霊碑に手を合わせた。毎年一緒に来ていた母は昨年11月に80歳で他界。「今年初め、原爆症の認定書が届いた。もう少し早く認定してくれたら…」と涙を浮かべた。

 5・15 大学生2人が家族連れにインタビューしていた。京都市の京都外国語大4年近藤綾加さん(22)は「平和新聞」を作り、8・6ドキュメントを載せる。「体験談が一番心に響く。高齢化する被爆者の声を伝えたい」と誓った。

 5・30 中区の広実敬子さん(75)が元安橋から川面を見つめ目をぬぐう。兄=当時(18)=は被爆から14日後に死亡。姉=当時(14)=は骨も見つかっていない。「熱くて川に飛び込んだのだろうか。こういうことのない国にしないといけない」

 6・30 広島市内各所の原爆死没者の慰霊碑に半世紀以上、水をささげ続ける南区の宇根利枝さん(90)の姿が今年もあった。「あの日飲めなかった水でのどを潤して、安らかにお眠りください」と願いを込める。

 8・15 中区の気温は28・2度。爆心直下の島外科内科前では、さいたま市の会社員森すぐるさん(43)ら4人が、鐘の音に合わせ黙とうをささげた。

 8・30 「広島に住むからには一度は来たいと思っていた」。愛媛県今治市出身で広島大3年水口由以さん(20)=東広島市=は、会場脇から平和記念式典を見守った。

 10・10 祖父と叔父の慰霊に訪れた東区の宮田範雄さん(64)。「核兵器のない世界」への努力を訴えたオバマ米大統領の演説を評価した上で、「草の根の市民の連帯も大切。連帯の仕組みづくり、そこでの議論を国際的に発表する仕組みづくりを広島市はしてほしい」と強調した。

 11・45 古式泳法のグループが元安川で奉納遊泳を始める。静川周(めぐる)会長(65)=中区=は「水を求めて亡くなった方の魂を鎮めたい」。

 12・20 「悲惨な状況を知らない人が海外にはたくさんいる。知識を共有できるよう映画などを作って広めてほしい」。初めて来日した英国人の女子学生タムリ・ハナさん(19)は、原爆慰霊碑に手を合わせた。

 14・12 この日の最高気温34・2度を記録。平年より1・7度高く、今年最高の暑さになった。

 15・30 安芸区の瀬野小1年寺本圭佑君(7)は母智恵さん(43)に連れられ、初めて公園に来た。「平和と言えば一番に思い浮かぶ場所だから」。夏休みの宿題で、クレヨンを使い画用紙いっぱいに原爆ドームを描いた。

 16・10 西区の主婦奥窪幸子さん(81)は国立広島原爆死没者追悼平和祈念館で妹の笑顔の遺影と対面。妹は中区土橋町で被爆し、行方不明となった。コンピューターに映った妹を優しくなで「また来るからね」。涙声を振り絞った。

 19・00 今年4月に誕生した南区のマツダスタジアム(新広島市民球場)のスタンドにキャンドル2000本がともった。

 19・30 灯籠(とうろう)流しの灯が川面に揺れる。原爆ドームは約4千個のキャンドルが囲んだ。中区の公務員平石範之さん(45)は「原爆ドームに映える。あらためて平和への願いが強まった」。(和田木健史、衣川圭、藤田龍治、矢野匡洋、鈴木大介)

【写真説明】<上>原爆ドームの間から夏の日差しが差し込む=6日午前7時42分(撮影・宮原滋)
<下>原爆慰霊碑前のぬれた地面に座り、犠牲者に祈る人=6日午前3時15分(撮影・高橋洋史)


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