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被爆の「痛み」かみしめ熱演 「夕凪の街 桜の国」主演の麻生久美子 '07/7/22

 被爆をテーマに、過去と現代の二人の女性の恋愛や家族愛をつづった映画「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」が全国に先立って広島で公開された。原爆投下から十三年後の広島でけなげに生きるヒロイン・皆実(みなみ)を、広島弁で好演した麻生久美子は「この役に巡り合えて、かけがえのないものを手にした」と撮影を振り返った。

 廃虚から立ち直りつつある街で、原爆で父と妹を亡くしながら母と二人つつましく、前向きに暮らす皆実。ほのかな思いを寄せる会社の同僚から愛を告白され、「あの日」から抱き続けた、生き残った罪の意識を打ち明ける。「生きとってくれてありがとうな」。そう抱きしめられた直後に原爆症で倒れる。原爆の悲惨さを直接的に伝えるシーンはない分、麻生の姿を借りた皆実の言葉が胸を締めつける。「うちらのこと忘れんといてね」。その思いは、現代を舞台にした「桜の国」で希望を紡ぐ。

 「どうしても私がやりたい、と思った初めての役」と言う。「だけど、自分が演じるには越えなきゃいけない壁がたくさんあるような気がして…。皆実がすごく遠く感じた」

 出演が決まった昨年四月、原爆資料館を四時間かけて見学した。「心は痛いし、怒りも出てくるし、切ないし、いろんな感情が渦巻いて涙は流れるし、どっと疲れた」と表情を曇らせる。「でもこの役を演じる者、次の世代に伝えていく者として、知ろうとしない、知りたくないでは済まない」と感じた。

 「実はこの作品の話が来る前、俳優に向いていないんじゃないかって、すごく悩んでいた」と打ち明ける。どうしたら皆実を演じることができるのか。七月の撮影開始直前まで自問自答を繰り返した末、「原爆を体験した皆実の心情を理解するのはたぶん無理だけど、理解しようとする姿勢が大切なんだと気付けた」。その気持ちを胸に現場に臨んだ。

 今村昌平監督に見いだされ、「一番大事と思っている作品」という「カンゾー先生」。ラストシーンでは、舞台となった玉野市沖の小舟の上で、西の空に浮かぶ、きのこ雲を見つめている。「あの映画で岡山から見ていた広島に今回はいる。佐々部清監督も今村さんの学校(横浜放送映画専門学院、現日本映画学校)の出身だし、何か引き寄せられた感じがある」と言う。

 「私も見終わって、自分が生きていることにすごく感謝できた。若い人たちに見てほしいし、世界の人々にも見てほしい」と思い入れをこめて語った。(山中和久)

【写真説明】<上>「お母さんと一緒の銭湯の帰り道のシーンがすごく好き。もちろん全部のシーン、思い入れが深くて好きなんですけれど」(撮影・荒木肇)<下>「夕凪の街 桜の国」の一場面。麻生久美子(右)と吉沢悠


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