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銀幕が伝える被爆・戦争 各地に広がる平和映画祭 記憶風化にあらがう '07/7/25

 被爆や戦争の記憶の風化に映像の力であらがう―。そんな志を持った映画祭の試みが、戦後六十年を過ぎた今、各地に広がりつつある。広島では隔年開催の「ヒロシマ平和映画祭」が二回目を迎え、東京、大阪などでも相次いでいる。銀幕を介した新たな学びの場が息づく。

 ヒロシマ平和映画祭は、戦後六十年を機に市民による実行委員会が始めた。第二回の今年は八月十七日―二十六日、広島市内の五会場で約四十本を上映。実際の戦災孤児が出演し、被爆から二年目の広島の風景も映る「蜂の巣の子どもたち」(一九四七年)や、広島でロケした反核映画の金字塔「ひろしま」(五三年)など、戦後の面影も生々しい名作が銀幕によみがえる。

▽テーマを拡大

 核問題を扱った作品にほぼ絞った前回に比べ、今回はテーマを広げた。旧日本軍から性的暴力を受けた中国人女性の人生を追う「ガイサンシーとその姉妹たち」(二〇〇七年)や、北朝鮮への複雑な感情を抱える在日朝鮮人の家族を見詰めた「ディア・ピョンヤン」(〇五年)も上映する。

 実行委員長の映像作家青原さとしさん(45)は「被爆の痛みを知る地である広島は、他者の痛みを受け止めることのできる地でもありたい」と狙いを語る。

 六月には、東京都内で「被爆者の声をうけつぐ映画祭」が八日間にわたり初めて開かれた。被爆者が各地で起こしている原爆症認定訴訟への支援も込め、反核をテーマにした十九本を上映。約千五百人が鑑賞した。

 実行委員のアニメーション映画監督有原誠治さん(59)は「作品をリストアップするうち、『これは人類の宝だ』と思った」と振り返る。核を扱った貴重な記録映像や優れた劇映画が多数あることに驚いたという。「散逸が危ぶまれる古いフィルムもあり、映画祭はその価値に光を当てる意義もある。二回目にも挑みたい」と意気込む。

 このほか、戦争や貧困、環境問題などをテーマに「平和映画祭」と銘打った上映会は、今年で四回目の「東京平和映画祭」や大阪、名古屋にも広がる。八月十―十二日には米ニューヨークでも被爆者を招いて反核の映画祭が開かれる。

▽危機感背景か

 自治体などが出資するコンペ方式の本格的な映画祭とは異なり、いずれも市民の自主上映会としての映画祭だが、シンポジウムや講演と組み合わせて幅広い世代の人たちが学ぶ場となっている。

 こうした試みの広がりを、映画評論家の山田和夫さん(79)は「戦争の記憶が遠のき、平和憲法を変える動きが進む現状への危機感が背景にあるのでは」とみる。原爆を扱った映画「夕凪の街 桜の国」が今夏公開されて話題になるなど、映画が人々の心に訴えかける力が見直されている。(道面雅量)

■第2回ヒロシマ平和映画祭■

 広島市西区民文化センターを主会場に開かれ、監督や出演者らによるシンポジウムもある。青原さんTel082(871)3085。上映日程などの詳細はホームページhttp://www33.Ocn.Ne.Jp/〜dotoku/HPFF

【写真説明】「蜂の巣の子どもたち」の一場面(川喜多記念映画文化財団提供)


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