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手話で語る「被爆」記録 広島の仲川さん、聞き書き集発刊 '07/7/26

 聴覚障害者の被爆体験の聞き取りを長年続け、「原爆死没ろう者を偲(しの)ぶ碑」の建立にも尽力した広島市南区の手話通訳者仲川文江さん(67)が、聞き書き集「沈黙のヒロシマ」を発刊した。二十九日午前十時から、中区吉島東の県立広島南特別支援学校(旧広島ろう学校)内の碑前である慰霊式典で披露される。

 二〇〇二年以降に聞き取った九人が登場。時には感情をあらわにし、時には冷静に語るろう者の様子や、聞こえないために原爆に遭ったと自覚するまでに時間がかった体験を、東京のカメラマンが撮影したモノクロ写真とともにつづった。

 仲川さんは聞き取りを通じ、「原爆」を表す手話は一様ではないと知った。直接体験した人は、原爆が落ち熱線や爆風が広がる様子を「ハの字」で、入市被爆者は「きのこ雲」で表す。

 手の動きを適切に文章化するため自分が納得するまで足を運ぶなどし、出版までに丸五年かかった。〇三年に完成した碑の建立経緯もドキュメントにまとめて収録した。

 仲川さんは両親がろう者で、父は被爆した。終戦前に暮らした呉市で空襲も体験した。灯火管制に両親が気付かず、土足で家に上がってきた将校に電球を取られ、父親の手話通訳として取り戻しに行った経験は、心に深い傷を残し、取材や執筆の原動力にもなったという。「一日も早く核のない世界が訪れるよう、多くの人に読んでほしい」と望んでいる。

 B5判、二百二十四ページ。三千三百六十円。文理閣(京都市)が刊行し、二十七日から全国の書店に並ぶ。(森田裕美)

【写真説明】ろう者の被爆体験聞き書き集を出版した仲川さん


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