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戦前の町並みCGで再現へ 原爆で壊滅の旧中島本町 '07/8/1

 原爆で破壊された町並みや人々の暮らしを映像で「復元」する取り組みを続けている映像会社社長田辺雅章さん(69)=広島市西区=が新たに、現在の平和記念公園(中区)の一角だった「旧中島本町」を舞台にした作品づくりに乗り出す。「多くの命が犠牲になった事実を内外に伝えたい」と、最新の映像技術を駆使し、二〇一〇年の完成を目指す。

 元住民の聞き取りや、米国で入手した被爆前の航空写真などの資料を基に、被爆前の町の姿や暮らしぶりを三次元のコンピューターグラフィックス(CG)で再現する。ドキュメンタリーとドラマ仕立ての両面から企画を進め、六十分間の作品にまとめる計画だ。

 旧中島本町は映画館や商店、料亭、民家などが立ち並ぶ繁華街で、周辺を含む中島地区では被爆前、千三百世帯の四千四百人が暮らしていたとされる。

 田辺さんは原爆の爆心直下の旧猿楽町にあった自宅で両親と弟を奪われた。自身も入市被爆者。「原爆で一瞬にして消えた街に、市民の暮らしがあったことを伝えたい」とこれまでに旧猿楽町、旧細工町をそれぞれCG映像で「復元」した。

 今年四月、米ニューヨークの国連本部でこれらの作品を上映した際、「爆心地近くは公園だったから市民が犠牲にならずに良かった」と事実誤認の感想も聞いたことで、新たな作品づくりを決意したという。

 聞き取りなどに協力している元住民で被爆者の福島和男さん(75)=佐伯区=は、中島本町の自宅にいた両親や祖父母らを失った。「事実を永久に残してほしい。古里じゃけえね」と田辺さんの取り組みに体験継承への願いを託す。

 制作には、映画人教育に熱心な米国の大学などにも技術面などでの協力を求めるという。田辺さんは「参加する米国人に被爆の実情を知らせることにも意味がある。忘れてはならない記憶を世界に伝えたい」と意気込んでいる。(森田裕美)

【写真説明】平和記念公園で、旧中島本町の元住民の福島さん(左)から当時の様子を聞き取る田辺さん


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