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ヒロシマと美術かかわり見つめ 広島芸術学会、県立美術館でシンポ 「歴史 作品に厚み」 '07/8/4

 広島芸術学会(金田晉代表委員、二百十四人)が、広島市の広島県立美術館講堂で、シンポジウム「美術作品と場所」を開いた。市民が誘致運動を進める岡本太郎の原爆壁画「明日の神話」などを題材に、ヒロシマと美術のかかわりを見詰め、作品が生まれる場所としての広島について論議した。

 前広島市現代美術館副館長の竹沢雄三さんは、岡本太郎がメキシコのホテルに設置するため描いた「明日の神話」の題材が、なぜ原爆投下だったのかと問い掛けた。

 「生命力あふれる巨大壁画の国メキシコで負けない存在感を示すため、被爆国日本をモチーフとし、原爆の破壊力の中でも雄々しく人は生きていくとのメッセージを発したのではないか」と指摘。広島への誘致運動について「単に平和のためにというのではく、一人一人が壁画の意味をじっくり考え、誘致を実現したい」と述べた。

 運動に携わる画廊経営木村成代さんは「誘致が実現しても広島で壁画を独占するのではなく、国内外に貸し出し、太郎のメッセージが世界に届くようにしたい。最終的な“寝床”が広島であればと考え、運動を進めている」と思いを語った。

 石彫家の石丸勝三さんは、被爆遺構などヒロシマを素材にフロッタージュ(擦り取り)作品を作り、ベネチア・ビエンナーレに出展している北海道のアーティスト岡部昌生さんの仕事を映像で紹介した。「広島というとテーマは原爆に限定されがちだが、岡部さんと交流する中で、被害と加害の歴史を肉体化し、未来に伝えるというより広い視点を持った」

 ヒロシマはどう作品の舞台となってきたのか。広島市現代美術館の松岡剛学芸員は、平和記念公園と周辺の作品七十二点の設置状況から考察した。作品の第一号はイサム・ノグチの「平和大橋」「西平和大橋」(一九五一年)。慰霊碑も作品とすると、五四年から五七年にかけては設置ラッシュ。九一―九五年、九七―二〇〇二年は空白期間だが、半世紀以上にわたって繰り返し制作が続けられてきた事実を浮き彫りにした。

 広島市立大の前川義春教授は、同大が一九九四年に開学以降、市内外で野外活動をしてきた経緯を語った。被爆した旧日本銀行広島支店などの歴史的建造物で作品を展示。「醸し出す歴史が作品に厚みをつけてくれる。ただ、企画を重ねるにつれ、新しい視点も求められる」と街中アートの課題にも触れた。

 広島県立美術館の松田弘・総括学芸員は、広島という場所が作品制作の契機になると述べ、一方で「明日の神話」や岡部さんの作品などが窓となり、広島に来たことがない人もヒロシマを体験できる―とアートの持つ力に言及した。(守田靖)

【写真説明】「美術作品と場所」をテーマに話し合った広島芸術学会のシンポジウム


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