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ヒロシマの使命いま一度 '07/8/5

 人類史上初めて原爆被害を受けた広島は六日、「あの日」を迎える。核抑止への信仰はいまだ世界を覆い、この一年は被爆国の足元から、核武装論や原爆投下はやむなしとする発言が相次いだ。被爆者は「核兵器は絶対悪」との訴えを強め、明るい未来を開こうと格闘する。ヒロシマはあす、祈りに包まれる。集う人々はあらためて平和への訴えや願いを確かめ合う。

 全国の被爆者は三月末現在、二十五万千八百三十四人。一年間で七千七百人あまり減った。一方で、平均年齢は七四・五九歳と、昨年よりも〇・七四歳上がった。

 被爆六十二年。老いを深める被爆者の心は安らぐことがない。北朝鮮の地下核実験やパキスタンの新型原爆開発など、核兵器増強の動きや拡散の懸念は絶えず、核をカードにした国家間の駆け引きは続く。

 国内では「核保有について議論は必要」「(原爆投下は)しょうがない」などとする閣僚の発言もあった。憲法九条を含めた憲法改正を可能とする国民投票法も成立した。

 体験は風化しつつあるのか。これまでの訴えが不十分だったのか。ヒロシマは惑った。

 こうした中、胸のうずみ火を燃え立たせ、封印していた記憶を語り始めた被爆者がいる。「人類と核兵器は共存できない」とは、被爆者の体と心に刻み込まれた叫びである。真理である。

 若者たちも動き始めた。十代の少女たちが被爆者の代わりに体験記の朗読に取り組む。まいた種は芽吹き、確実に育っている。

 司法や政治の場でも被爆者援護充実に向けた新しい流れが出てきた。各地の原爆症認定集団訴訟で、原告の被爆者が六回連続で勝訴し、被爆者に向き合う国の姿勢が厳しく問われた。政治的解決を目指す動きも党派を超えて強まっている。

 怒りや悲しみ、憎しみを核兵器廃絶の願いに昇華させ、行動の先頭に立ってきたヒロシマ。人々の希望を束ねてきたヒロシマ。めぐりくる八月六日。果たしてきた役割の大きさ、これからも担うべき使命を、いま一度問い直したい。(林仁志)

【写真説明】夕日を受けてたたずむ原爆ドーム。被爆地広島にまた祈りの朝が訪れる(撮影・浜岡学)


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