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親子で戦争話す機会に 「はだしのゲン」原作者・中沢啓治さん '07/8/9

 原爆を描く自伝的漫画「はだしのゲン」をフジテレビがドラマ化した。作者で広島市中区出身の漫画家中沢啓治さん(68)は、「風化の進む今、家族で見て、戦争や原爆について話し合ってほしい」と心境を語る。

 これまで映画にもなり、演劇にもなった。しかし、テレビドラマは初めて。「親子で見てもらえるテレビは一番訴える力が強い。念願でした」と喜ぶ。

 原作は一九七三年から少年ジャンプに連載した長編。体験を基にした描写の迫力、苦難に負けず戦後を生き抜くゲンの姿が、読者の反響を呼んだ。

 脚本を手掛けたのは「踊る大捜査線」などの君塚良一で、テレビドラマ版(汐文社)として出版もされた。「長編の原作をうまくまとめてあった。これはホームドラマ。どう映像化されるだろうか」と期待する。このところ高まってきた憲法論議、(原爆を容認する)大臣の発言…。「きな臭くなる今こそ、ドラマで戦争と原爆を問い直したい」とも訴える。

 被爆漫画の原点は、母の死を機に書いた六六年の「黒い雨に打たれて」だ。差別を恐れ、東京で被爆体験を隠し続けていた。火葬場で小さくなった母の遺骨を見た時、原爆への怒りが噴き出した。

 「誰かに読んでもらわなくては」。短編を書き上げ、一年かかって世に出した。その後少年漫画に転身。「今度は自伝を書け」との編集長の勧めで、長期連載が決まった。

 目に焼き付いたままを描こうと努めた。せい惨な描写が「怖い」と言われもした。「あんなもんじゃない。怖いと思ってもらえたら作者冥利(みょうり)だ」。行き詰まった時には、ゲンを読み勇気をもらう―という若者の感想が支えとなった。

 込めた主題は「麦」だと言う。「踏まれても踏まれても芽を出し、まっすぐ伸びる。『麦になれ』とは父の口癖だった。人生の応援歌として書いたつもり」

 発表から三十四年。目や手が弱り、漫画制作は難しくなった。「死ぬまでに原爆の映画をもう一本、撮れたら」と夢を語る。

 ドラマは前、後編に分け、十、十一日の午後九時から放送する。ゲンの父を中井貴一、母を石田ゆり子が演じる。(片山明子)

【写真説明】「短気だけど正義感の強いゲンは僕の分身。ドラマ化がうれしい」と語る中沢さん(広島市南区のテレビ新広島)


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