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ジュニアライター発信

Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第62号) 「平和カフェ」から発信

気軽に交流 思いつなぐ

 平和記念公園に近い広島市中区土橋町のビルに、ソーシャルブックカフェ「ハチドリ舎」がオープンして1年余りがたちました。被爆者と同じテーブルを囲んで体験を聞く集いや、途上国支援(とじょうこくしえん)や平和教育を考える交流会などが開かれています。木材を多く使った温かみのある空間で、お茶を飲みながら誰(だれ)でも気軽に交流することができます。海外の平和活動家や外国人観光客が訪れることも多く、国籍(こくせき)や年代を問わず、幅(はば)広い層が集まる平和発信の新しい拠点(きょてん)になっています。中国新聞ジュニアライターはその取り組みや思いを取材するとともに、自分たちでイベントを開催(かいさい)してみました。

紙面イメージはこちら

■ハチドリ舎に集う人々

毎月「6」の日 被爆体験聞く会

 ハチドリ舎では、毎月「6」のつく日に「語り部さんとお話ししよう!」と呼びかけ、被爆者や被爆体験伝承者と同じテーブルに座り、体験を聞く会を開いています。

 「被爆者と親しくなって、原爆を身近な問題として捉(とら)えるようになった。他の人にも同じような体験をしてほしい」と店主の安彦恵里香(あびこ・えりか)さん(39)が企画しました。日本語だけでなく英語で被爆体験を聞くことができ、外国人旅行者も多く訪れます。

 私が取材した10月26日は、被爆者の堀江壮(ほりえ・そう)さん(78)=佐伯区=が「語り部さん」でした。熱心に聞いていたのは、米国ニューヨーク市から初めて広島を訪れたルーファス・ワイヤーさん(37)。祖父が戦時中、原爆を開発した「マンハッタン計画」に関わっていたと聞き、いつか広島を訪れたいと思っていたそうです。

 ワイヤーさんは宿泊先(しゅくはくさき)のゲストハウスでハチドリ舎を知り、来店しました。4歳で被爆し、父親を原爆で失った後、姉や兄をがんで亡くしたという堀江さんの体験を、うなずき、質問しながら聞いていました。

 この日は、広島市の被爆体験伝承者、佐々木佐久子(ささき・さくこ)さん(68)=西区=も、パソコンで原爆の絵と写真を見せながら、被爆者の竹岡智佐子(たけおか・ちさこ)さん(90)や夫の体験を紹介しました。ワイヤーさんは「被爆体験を直接聞いて圧倒されるとともに考えさせられた。和やかな雰囲気(ふんいき)で被爆者と語り合える場があるのはすてきだ」と話していました。

 「話しながら相手のペースに合わせてしっかり伝えられる」と佐々木さん。世代や国籍を超(こ)え、誰でも被爆者とつながれる場はとても魅力的(みりょくてき)です。カフェをきっかけに、原爆や平和に関心を持つ人が増えてほしいと感じました。(高3松崎成穂)

■店主・安彦さんに聞く

社会の多様な課題 考える場に

 ハチドリ舎店主の安彦恵里香さんは、昨年ノーベル平和賞を受賞した国際非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))のパートナー団体「プロジェクト・ナウ」の代表も務めています。広島で平和カフェをなぜ開いたのでしょう。

 茨城(いばらき)県出身の安彦さんは高校卒業後、6年間勤めた後、NGOのピースボートが主催(しゅさい)する「世界一周の船旅」に参加しました。約20カ国を周り、パレスチナ問題をはじめ、さまざまな課題が存在することを知ります。

 そして帰国後「平和に限らず同じ思いを持つ人たちがもっとつながりを持てる場が必要だ」と感じ、昨年7月に「人と社会をつなげる」場所としてハチドリ舎をオープンしました。

 「語り部さんとお話ししよう!」をはじめ、「軍事基地」「同性婚(どうせいこん)」といった社会問題を題材にした映画の上映会なども安彦さんは企画しました。難しいテーマのイベントでも、たくさんのお客さんが訪れるそうです。人を集めるためには「対象者をはっきりし、何を、なぜ伝えたいのかをしっかり考えなくてはいけない。裏話や失敗談を紹介(しょうかい)したり、有識者を呼んだり、多くの人に足を運んでもらう工夫も大切」と話してくれました。

 木製のテーブルやいすを使ったカフェの店内。居心地がよくて「社会問題を考える場所=堅苦しくて近寄(ちかよ)り難い」というイメージを、ガラリと変えました。安彦さんの話を聞いて、一人一人の考えを気軽に共有できる、地域に寄り添(そ)った場所が増えるといいな、と感じました。(高1佐藤茜)

■ジュニアライター トークイベントに挑戦

参加者集め 難しさ実感

 私たちも10月27日に「Talk with ジュニアライター~10代のヒロシマ記者と話そう~」というイベントをハチドリ舎で開きました。ジュニアライターならではの経験を伝えたいと、トークイベントを開くことにしました。

 1年間の活動を紹介するパワーポイントや話し合うテーマを書いたカードを用意し、イベントが盛り上がるように準備。2グループに分かれて「平和な世界を実現するために必要なこと」などをテーマに語り合いました。

 参加した高校2年の隅田(すみだ)ももさん(17)は「みんなが幸せだと言えることが平和だ」。高校3年の長谷(はせ)晶さん(18)は「自分にとって何が平和なのかを考えることが大事」と話しました。飛び入り参加した広島市の被爆体験伝承者、東野真里子さん(66)=安佐南区=は、親子間で被爆体験を伝えることの難しさを打ち明けてくれました。

 「過去の日本に関心を持つ」「身近なことから始める」「無関心が一番怖(こわ)い」など議論は尽きませんでした。紙面で取り上げてほしいテーマを聞いたら「いろんな国の若者が交流する国際会議」などの提案がありました。

 みんな熱心に語り合っていて励まされました。高校教諭(きょうゆ)の佐伯佑紀さん(31)は「しっかり平和について考えていた。今日出た意見を聞き、一緒に成長していきたい」と手応えを感じたそうです。

 ただ反省点は事前に新聞で知らせたのに一般の参加者が少なかったことです。まじめな内容でも堅苦しくないことなどを伝え、「平和イベント」の敷居(しきい)を低くすることも必要と感じました。(高2藤井志穂、高1伊藤淳仁、川岸言織)

こんなイベントあったらいいな…

◇平和をテーマにした音楽コンサート
 「アオギリのうた」などを合唱する。歌詞を募集し、オリジナルの平和の歌を披露する(高3松崎成穂)

◇折り鶴アート制作
 参加者と一緒に、折り鶴でいろんなアート作品を作る(中3平松帆乃香)

◇作ってみよう平和の絵本
 グループに分かれて被爆体験や平和に関する絵本を作り、読み聞かせをする。 その様子をインターネットにも掲載(高2藤井志穂)

◇10代の平和会議
 ピースシーズでこれまで取り上げた話題を紹介し、中高生に伝えたいことを話し合う(高1伊藤淳仁)

◇出張版「この一作」
 ジュニアライターが選んだ平和に関する本の紹介(高1佐藤茜)

(2018年11月15日朝刊掲載)

【編集後記】
 被爆者の体験を聞ける場と聞いて、どこか堅苦しい感じを想像していたのですが、実際に「6」のつく日のお話し会を取材してみると、和やかで親しみやすい雰囲気がとても印象的でした。ハチドリ舎のように、アットホームな雰囲気の中で、誰でも気軽に被爆者と会話できる場があれば、「どこか遠くのもの」「過去のもの」として捉えていた原爆や戦争が、多くの人にとってより身近なものになるはずです。被爆者の方が大人数の前で証言する会とは異なった、新しい被爆体験を伝承する形をハチドリ舎で見ることができました。(松崎)

 今回のピース・シーズで、平和イベントを企画することの難しさ、大変さを感じました。特に私が気を付けたことは、独りよがりにならないようにお客さんの視点を意識することです。ジュニアライターとして、色々なことを発信していく上で、双方向のコミュニケーションが取れるイベントを、今後も継続して開きたいと思いました。(平松)

 イベントを企画する際のこつを、ハチドリ舎を初めて取材した時に聞くことができました。自分たちがどんなイベントを開きたくて、それはどうしてなのか。来てくれるお客さんは、何を学んで帰ることができるのか。あいまいなまま、やりたいことだけが先走っていた私たちに、安彦さんは的確なアドバイスをくださいました。イベントを企画する側という、普段経験することのない立場でのピース・シーズでしたが、私たちジュニアライターが「どうなっていきたいのか」など、これからの活動にも関わる大切な心構えをたくさん学ぶことができました。独りよがりにならず、常に周りの人、相手とのつながりを考えていく。当たり前のことだけれど、だからこそ忘れずにいようと思います。(佐藤)

 入ったばかりの頃、先輩のジュニアライターが、書類や発表で使う画用紙などをさっそうと裁断機で切って皆に配る姿に憧れていました。真似しようとすると「危ないからまだダメ」と止められて、使いこなす先輩がますますかっこよく見えるというループに入り、「裁断を安心して任せられるくらい頼もしい先輩になる」という目標をひそかに立てました。それから数年、今回のイベントで、質問カードや宣伝チラシを作る時に使用できました。これからも頼れる先輩を目指し精進しようと、改めて気が引き締まりました。(藤井)

 今回イベントの準備をする中で普段とは違う準備がありました。それはジュニアライターについて説明するパワーポイントの制作です。ジュニアライターを何年かやってきた中で、これまでも、交流会などでパワーポイントを使ったことはありますが、自分たちで作ったのは初めてです。スライドの中にはジュニアライターが参加しているイベントや行事の紹介のページ、ジュニアライターが執筆に参加している記事や関わり方、大切にしていることなどを盛り込みました。ジュニアライターがどのような活動をしているのか、大切なことは何か、など改めてたくさんのことを考え直しました。この経験をこれからの活動に活かしていきたいです。(伊藤)

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