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ジュニアライター発信

[ジュニアライターがゆく] 世界の内紛 聞いた考えた 性暴力まん延 衝撃的で悩む

 民族や宗教(しゅうきょう)の対立、あるいは権力(けんりょく)を独占(どくせん)しようとする争いが軍事的な手段(しゅだん)に発展(はってん)した「紛争(ふんそう)」「内戦」によって、世界ではたくさんの人たちが古里を追われています。中国新聞ジュニアライターは、アフリカ中部のコンゴ(旧ザイール)の医師で昨年ノーベル平和賞を受けたデニ・ムクウェゲさん(64)を取材し、広島県内に住む元難民や支援団体の人から話を聞きました。国際情勢はとかく複雑で分かりにくいですが、命を奪(うば)われたり傷(きず)を負ったりするのは子どもたち。自分のこととして、一生懸命(いっしょうけんめい)に考えました。

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コンゴ ノーベル平和賞の医師から 男女平等のメッセージ

 ムクウェゲさんがノーベル平和賞を受賞したのは、紛争下のコンゴでレイプの被害に遭(あ)った女性の治療(ちりょう)と支援に力を尽(つ)くしてきたからです。東京と広島の非政府組織(NGO)に招かれて、広島市内で講演し、コンゴで起こっていることを話してくれました。

 コンゴでは、スマートフォンなど私たちも使っている電子機器の製造に不可欠な鉱物資源(こうぶつしげん)が、盛(さか)んに採掘(さいくつ)されています。資源がある土地と住民を支配するため、民兵らによる性暴力がまん延(えん)しているそうです。

 ムクウェゲさんが被害者支援に力を入れ始めたのは、治療した女性が何度も被害に遭って病院を訪(おとず)れ、娘や孫までも被害者になっている現状を知ったからです。女性は尊厳(そんげん)を傷つけられ、村から追い出されます。他の住民も身を守るために逃げてしまい、武装勢力(ぶそうせいりょく)の支配が拡大(かくだい)するという悪循環(あくじゅんかん)も生じています。

 コンゴで起きているこのような人権侵害(じんけんしんがい)は、世界であまり知られていません。ムクウェゲさんは「性暴力は支配のための安価な兵器として使われている。そのような現状に無関心でいること自体が、破壊力(はかいりょく)となる。みんなで取り組むべき問題だ」と訴えました。

 講演後、私たちのインタビューに答えてくれました。「コンゴなどで起こっている性暴力を防ぐため10代の若者ができること」を尋(たず)ねると、「性暴力は男女平等でない環境(かんきょう)から生まれる。『男性の方が強い』のではなく、平等だと常に考えよう」と呼び掛(か)けました。色紙を渡(わた)すと、そのメッセージを書いてくれました。

 ムクウェゲさんの話は知らないことばかりで、衝撃的(しょうげきてき)でした。どのように事実を伝えればいいのか、記事を書きながら悩(なや)みました。まずは紛争地の現状にもっと目を向けようとすることから始めたいと思います。

シリア支援 行動に勇気 廿日市の団体取材

 過酷な内戦がさらに複雑さを増すシリアに、広島から支援物資を送り続けている人がいます。シリア出身のアブドゥーラ・バセムさん(51)=廿日市市=は2012年に市民団体「日本シリア連帯協会」を設立し、13年から活動しています。

 シリア国内や隣国トルコの難民キャンプにいる子どもたちに、年1回、ランドセルや文房具(ぶんぼうぐ)を送っています。全国から集まった物資を船で神戸からトルコまで運んだ後、現地の支援団体がトラックでキャンプに届けて、一人一人に手渡しています。

 終わりの見えない紛争について話すバセムさんは、心配そうな表情を浮(う)かべていました。それでも「母国だからというだけでなく、人間として困(こま)っている人を助けたい」と力を込(こ)めていました。

 「何か支援したい」という私たちの漠然(ばくぜん)とした思いを形にしているバセムさん。自分にできることを考えて実際に行動しよう、という勇気をもらいました。

「復興を信じる」決意に共感 アフガンから離れ難民生活11年

 「難民」は、迫害(はくがい)や紛争から逃れるために母国を離(はな)れた人たちです。アフガニスタン出身のワヒドゥラー・フサインザダさん(30)は、11年間の難民生活を送った過酷(かこく)な体験を、国際協力機構(JICA)中国が広島市内で開いたイベントで語りました。

 フサインザダさんは、アフガニスタンで内戦が拡大する直前の1990年、両親ら家族10人で隣国(りんごく)イランに逃れました。2歳でした。家や持ち物などを捨て、警察から身を隠(かく)しながら車で国境を越(こ)えました。

 イランでは貧しく、幼い自分も生計を立てるためにミシンで服を作って1日12時間働きました。「難民のことをよく思わない現地の人から襲(おそ)われることもあった」と言います。

 13歳で帰国。母国を背負(せお)う大人になろうと勉強に励(はげ)みました。大学の講師になり土木工学を教えました。昨年9月、JICA研修員として来日し、再来年の3月まで広島大大学院国際協力研究科で学ぶ予定です。

 目標は、国の発展(はってん)のために働く若者を育てることだそうです。母国は平和とほど遠い状況ですが「被爆後の広島のように、アフガニスタンにも平和が訪れ、復興できると信じている」と前を向いていました。

私たちが担当しました

 高2斉藤幸歩 高2フィリックス・ウォルシュ 高2目黒美貴 高1平松帆乃香 高1柚木優里奈 中3岡島由奈 中2中島優野

(2019年10月21日朝刊掲載)

【取材を終えて】

 私は今まで難民について新聞やテレビなどで見聞きはしていましたが、詳しいことは知りませんでした。しかし、今回の取材で難民について知り、私たちにもとても関係があり、知っておかなければならないことなのだと感じました。難民のように、私が知らないことはたくさんあります。これからもたくさんのことを学んでいき、たくさんの人に伝えていきたいです。(中2中島優野)

 犯罪に巻き込まれても警察に助けを求めることはできない。生きるために子どもでも働くしかない。テレビや新聞などで見聞きして知っていたつもりになっていた難民の生活が、あまりにも今の自分の生活とかけ離れていて愕然としました。政治状況の悪化などで、本当は離れたくない祖国を離れなければいけない難民たち。彼らの暮らしが少しでも今より楽なものになってほしい、そしていつか安心して祖国に帰れる日がきてほしい。そのために私たちが出来ることはあるのか、そしてそれは何なのか考えていきたいと思いました。(高1平松帆乃香)

 ムクウェゲさんの来日にあたって、初めてコンゴについて調べました。あまりにひどい性暴力の現状が衝撃的でした。難しい内容なので、記事を書く時もどう表現したら感情的にも他人事のようにもならずに事実を伝えられるか、かなり悩みました。ムクウェゲさんが言っていた、他人の気持ちになって考える、という基本的なことの重大さを強く実感した取材でした。(高2目黒美貴)

 今回の取材では、性暴力がもたらす心の傷について学びました。性暴力を受けた女性もその家族も全員、傷つけられて故郷を追われます。性暴力によって自分の家族や故郷が奪われてしまう事実を知ったとき、爆弾よりも恐ろしい兵器をいとも簡単に造り出せる現実があることに憤りを感じました。日本では、自分の帰る家があり、変わらない日常を送ることができますが、戦争と隣り合わせでないこの日常に感謝しつつ、世界の現状を同世代に伝え、共有していきたいです。(高2斉藤幸歩)

 ムクウェゲさんの講演会に参加して、貴重な体験談や考え方を知ることができました。コンゴでは、私たちが毎日使っているスマートフォンやパソコンを作るための材料の鉱物を採取するため、住民を追い払おうと性暴力が安価な兵器として使われています。性暴力で、性別や年齢など関係なく無差別に女性たちの生殖器を火傷させたり異物を入れたりしていることを知り、性暴力について自分の理解がどれほど浅かったのかが分かりました。コンゴだけでなく、他の国でもこのようなひどいことが起きているのではないかと想像しました。ムクウェゲさんから聞いた話は国単位の問題で、世界中の一般市民に何ができるのかという疑問を抱きました。インタビューでムクウェゲさんに尋ねてみると「男女の平等を守れば女性や他人に性暴力をふるうという思考にならない」と答えが返ってきました。この言葉を聞いて、私たちは男性が有利になっている現代社会の中で、男女の平等性を意識して生活をしなければ、この問題の根本的解決にいつまでたっても至らないと考えました。(高2フィリックス・ウォルシュ)

 今回初めて、世界の紛争について学びました。バセムさんが「シリアの大統領は、自国のことを『国民』のためにあるのではなく、『大統領自身』のためにあるのだと思っている」と話していたのが印象的でした。命からがら祖国を離れても、保健施設の利用制限など数々の不快な問題を抱える難民の人たちのことを想像すると、胸が締めつけられます。紛争や難民キャンプでの生活は想像し難いことですが、恵まれた環境下にいる私たちこそが世界の紛争をなくすキーパーソンだと思います。まずは、支援物資集めを家族や友達に呼びかけて実行したいです。(中3岡島由奈)

 バセムさんの取材で、自分にできることを探し、行動に移すことが大切だと感じました。バセムさんは内戦が長引くシリアに国内から集めた支援物資を送っています。現在はランドセルや文房具を送っているそうです。「母国だからという理由だけではなく、人間としてできる限りのことをしてあげたい」という言葉に心を動かされました。私も自分には関係ないから大丈夫という気持ちではなく、何かできることはないかという考えを持ち、実行していきたいと思います。(高1 柚木優里奈)

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