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ヒロシマの響き 被爆ギター物語 2世のささぐちさん 児童文学刊行

 広島に実在する被爆ギターを題材にした児童文学「ラグリマが聞こえる―ギターよひびけ、ヒロシマの空に」(写真・汐文社)が、被爆75年の今夏、刊行された。被爆2世のささぐちともこ(本名桑田朋子)さん(59)=広島市西区=が7年の歳月を掛けて書き上げたデビュー作。謎解きの要素を絡ませて少女の成長をつづる爽やかな筆致に、平和への思いがこもる。(西村文)

 主人公は現代の広島市に住む小学5年の美音(みおん)。ある日、古い洋館に越してきた「怪人」の正体を探りに行き、窓越しに聞こえてきたギターの旋律に驚く。それは、2年前に交通事故で死んだ父親がよく弾いていた名曲「ラグリマ」だった。ラグリマはスペイン語で涙を意味する。

 ささぐちさんは十数年前、スペイン料理店で耳にしたクラシックギターの音色に魅了され、ギター教室に入門。演奏仲間である、広島県海田町の井上進さん(65)が父親から受け継いだ被爆ギターを知った。はかなくも美しい音色に感動した。「被爆ギターは人の心に訴える力がある。物語にして世に出したいと思った」

 執筆の後押しになったのは、母の笹口里子さん(89)から聞いた被爆体験だ。爆心地から約2キロの広島電鉄家政女学校の寮の食堂で被爆。3日後から路面電車の車掌を務め、復興を支えた女学生の一人だった。

 中学生時代から詩が好きで、創作を始めたのは子育て中の20代後半から。2005年に秋田市の童話コンクールで特選を受賞。11年には被爆ギターを題材にした20枚の短編で、広島市民文芸・児童文学部門の二席に選ばれた。

 応募作を広島市在住の児童文学作家・中澤晶子さんに見せたところ、「長編に挑みなさい」との助言を受けた。中澤さんが主宰する創作教室に通い、仲間とも切磋琢磨(せっさたくま)。何十回も書き直した原稿が編集者の目にとまり、初出版のチャンスをつかんだ。

 「ラグリマ―」では過去の回想シーンで、被爆直後の広島の惨状を描いた。母から聞いた被爆体験や資料、調査を基に「ノンフィクションに近づける努力をした」。ギターの切ない音色の風情を醸し出す描写は、音楽好きの大人の読者にも好評を得る。大好きな英作家A・A・ミルンの「クマのプーさん」のように、「子どもにも大人にも愛される物語を書いていきたい」と次回作に意欲を燃やす。「ラグリマ―」は1650円。

(2020年8月12日朝刊掲載)

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