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連載・特集

継承のかたち 地域でたどる戦後75年 第4部 呉空襲と今 <5> 大和と重ねて

市街地の惨状 常設展で

若手学芸員が知恵絞る

 今春に開館15周年を迎えた呉市宝町の大和ミュージアム。呉海軍工廠(こうしょう)で建造された戦艦大和の威容や、そこに結実した技術力を伝える展示が人気を集める一方、地域に甚大な被害をもたらした呉空襲についてのコーナーも常設展の一角にある。

 2月、このコーナーの展示更新を手掛けたのが浜名翔平学芸員(26)。「来館者には大和について知るだけで終わってほしくない」と話す。同館学芸員に就いて5年目、最も若手だ。

米軍機の破片も

 焼夷(しょうい)弾で炎上する市街地、決死の消火に挑む消防隊員、爆撃され沈みゆくタンカー…。住民や米軍が撮影した写真16枚が並ぶ。血痕が残る戦艦日向(ひゅうが)の軍艦旗や、空襲の際に撃墜された米軍機の破片なども展示している。

 「つながりやストーリーを持たせるように心掛けている」と浜名学芸員。撃墜された米軍機の乗員の一部は捕虜として広島に移送され、被爆死した。展示はそのことにも触れる。「呉空襲も原爆も、一続きの戦争の中で起きたことをあらためて確認してほしい」

 兵庫県明石市出身で、大学では日本史を専攻。同館着任まで呉市との縁はなく、「ほとんどゼロから勉強し直した」と振り返る。今では「呉の歴史を深く、幅広く伝え、平和の大切さを来館者と一緒に考えるのが使命」と思うようになった。

 戦時下の市民生活を紹介するコーナーの展示更新も手掛け、アニメ映画にもなった漫画「この世界の片隅に」のパネルを追加した。台所のかまどの前に座る主人公の姿に「戦争を人の営みと結び付け、具体的にイメージしてほしい」との願いを託す。

在り方問われる

 同館の戸高一成館長(72)は「戦争体験のリアルな声を聞くことは今後、ますます難しくなる。戦争を伝える施設の在り方もいっそう問われる」と語る。20周年の2025年度に予定する大規模なリニューアルに向け、構想を練る。

 大和を造った巨大な工廠を擁する軍港都市であるが故に、空襲の標的ともなった呉。繁栄と惨禍を裏表に刻む歴史をどう教訓化し、未来へつないでいくか。浜名学芸員は「今を生きる私たちの役割がとても重要になる」と気を引き締める。(杉原和磨)

 連載「継承のかたち~地域でたどる戦後75年」は今回で終わります。

(2020年8月20日朝刊掲載)

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