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「無価値」弾圧された芸術 広島県立美術館 所蔵作品展 戦争の陰に焦点

 広島市中区の広島県立美術館が、戦後75年をテーマとした「夏の所蔵作品展」を開いている。ドイツのナチス政権によって弾圧された西洋美術、戦前から戦後までの広島ゆかりの絵画作品など多彩な切り口で、戦争が芸術に与えた影響を見つめる。(福田彩乃)

 展示の一室では、1930~40年代、ナチス政権が「退廃芸術」と称した作品群に光を当てる。カンディンスキーやピカソ、ヘッケルらの約20点と関連資料が並ぶ。ナチスは前衛的な作品を堕落したものと見なし、国内各地の美術館から押収。焼却したり国外へ売却したりした。

 例えば、クレーのリトグラフ「内なる光に照らされた聖人」(1921年)。聖人がまとう衣服や物品を描かないことで、聖人の精神的な強さを表した。しかし、古典的で写実的な作品を評価したナチスは、聖人に見えない、人間らしい形をしていないなどとして受け入れなかった。

 幾何学模様で構成するカンディンスキーの抽象画、原色と荒々しい筆致が特徴のヘッケルの油彩画も放逐の憂き目を見た。対象物の形や色を忠実に再現していない作品は、芸術性を否定された。

 ナチスは37年にミュンヘンで「退廃芸術展」を開き、約650点を展示した。会場では、同展を記録した貴重な動画も公開している。ナチスが作品を雑然と並べ、無価値という印象を与えた様子が映る。さらに、「無価値」な作品を所蔵していた美術館の見識を批判するため、その高額な購入額をあえて示したことも分かる。

 「ナチスは一見して分かりやすいものだけを評価し、新しい芸術表現を認めなかった」と山下寿水(ひさな)主任学芸員。「多様な表現の重要性を問い続けなければ、弾圧の歴史は繰り返しうる」と、美術史の「負の歴史」に目を向ける意義を強調する。

 所蔵作品展では他に、戦前から戦後までの広島ゆかりの画家の作品を集めた一室もある。独自の画風を究めながらも戦病死した靉光(あいみつ)をはじめ、原爆で命を落とした岩岡貞美、原爆を画題とした入野忠芳らの作品が目を引く。被爆者である平山郁夫の画業をたどる小特集などもあり、見応えのある展示となっている。

 彫刻の展示室では、「原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑」で知られる彫刻家芥川永の作品がそろう。同碑の原型となった石こう像を展示するほか、「もどれない風(太田川2)」や「カンタトリス(遠くの声3)」は、原型の石こう像と完成したブロンズを並べ、制作過程を明示する。

 夏の所蔵作品展は27日まで。

(2020年9月4日朝刊掲載)

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