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被爆資料 水害から保護 原爆資料館 大規模台風の高潮想定し対策 

止水板設置 上階に避難も

 全国で豪雨や台風による水害が相次ぐ中、原爆資料館(広島市中区)は地下収蔵庫に保管する被爆資料を浸水被害から守る対策をまとめた。簡易型の止水板で浸水を防ぎ、必要に応じて資料を上階に避難させる。原爆被害を刻む貴重な資料が失われる事態を避けるため、台風シーズンを見据えて議論を進めていた。(明知隼二)

 対策は最大規模の台風による高潮被害を想定。潮位や進路などの悪条件が重なれば、収蔵庫のある東館一帯で水位が高さ1~2メートルに達する可能性があるとする。気象予報から浸水の危険があると判断した場合、樹脂製の止水板(高さ53センチ)の設置と資料避難の2段階の対応を取る。

 資料館は本川と元安川に挟まれたデルタ地帯にあり、建物の東側と北側から水が流れ込む可能性が高いとして2カ所を止水板でふさぐ。8月に止水板15枚を約50万円で購入し、今月1日に設置テストをした。

 防ぎきれないと判断した場合は、学芸員たちが資料を地下収蔵庫から上階に避難させる。泥水で汚れると修復が難しい衣類や紙類、時計などの小物類を優先して運ぶ。最低限の移動であれば、3~4時間の作業時間を見込んでいる。

 助言した広島工業大の田中健路教授(水文気象学)は「現場レベルでは最も現実的な内容だ」と対策を評価。ただ温暖化に伴う海水面の上昇などで高潮リスクは長期的に高まる可能性があると指摘する。「施設の大規模改修に合わせ、ハード面の対策も強化してはどうか」と提案する。

 昨年10月の台風では、川崎市市民ミュージアムの地下収蔵庫が全て浸水し、考古資料や美術品など約23万点が被災。資料館の運営に助言する有識者会議では、今年2月の初会合で、複数の委員から早急な対策を求める意見が出ていた。

 7日午前には、台風10号が中国地方へ最接近すると見込まれる。加藤秀一副館長は「失われれば取り返しがつかない被爆資料。台風情報を注視し、いつでも止水板を設置できるように備えたい」としている。対策は次回の有識者会議で示し、あらためて意見を聴く方針という。

(2020年9月5日朝刊掲載)

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