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社説・コラム

『ひと・とき』 空知民衆史講座代表 殿平善彦さん 

名もなき死者の思いを聞く

 「名もなき死者の思いを聞く。それには骨に出会うしかないのです」。北海道の空知民衆史講座代表で浄土真宗僧侶。先月末、呉市の西教寺蔵本通支坊で「無明(むみょう)の世を生きて」と題して講演し、近代日本の「負の歴史」と向き合ってきた半生を振り返った。

 両親は奈良県から移住。「植民者の末裔(まつえい)」である自らは何によって立つのか問い続け、市民運動に関わる。その一つは北海道大が研究目的でアイヌ民族のコタン(集落)から持ち去った遺骨の返還を求める訴訟。2017年に札幌地裁で和解が成立した。「85年もの間奪われたままでした。かつて人類学者たちが競って掘り出したのです」

 太平洋戦争では日本人戦没者のうち112万の遺骨が回収されていない。戦場には植民地出身者も多数いた。16年に議員立法で成立した戦没者遺骨収集推進法は遺骨収容を初めて国の責務と位置付けたが、あまりに遅い。「死者がこのように粗末に扱われていいのでしょうか」。北海道の戦時下の強制労働の歴史を掘り起こす活動も続けてきた。深川市・一乗寺の住職。(佐田尾信作)

(2020年9月10日朝刊掲載)

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