×

ニュース

栗原貞子の心 被爆者が説く 78歳松本さん 中区で来月から連続講座担当

「反戦の信念 学ぶこと多い」

 被爆者の松本滋恵(ますえ)さん(78)=広島市中区=が同区内の生涯学習教室で、10月に始まる連続講座「原爆詩人 栗原貞子の平和思想と実践」の講師を務める。「戦前も戦後も、流されずに信念を貫いた人」に引き込まれ、77歳だった昨年春、広島女学院大大学院で博士号を取得した研究テーマだ。(桑島美帆)

 「コミュニティ・アカデミー上幟」の秋期講座。農村で生まれ育った栗原が、アナキストの夫唯一との出会いを機に反戦意識を深めたことや、戦争と原爆体験に裏打ちされた詩作と平和運動の歩みを紹介する。原爆詩「生ましめんかな」、ベトナム反戦運動の中で広島の戦争加害の側面を告発した「ヒロシマというとき」などの代表作を時代背景も踏まえて解説する。

 松本さんは、自身の被爆体験と向き合おうとする中で原爆文学と出合った。

 爆心地から約500メートルの左官町(現中区本川町)で時計店を営んでいた母の実家は壊滅。祖父や伯父夫婦ら4人を失った。松本さんは爆心地から3キロの旧江波町の自宅で被爆した。20代で結婚後、3人の子どもに恵まれたが、32歳の時に夫が交通事故で他界。市内の小学校で給食調理員として働きながら家計を支えた。

 その間、胸に温めていたのは学びへの思いだった。定年を前に一念発起し、59歳で放送大に入学した。「生活と福祉」を専攻して猛勉強。さらに2011年の東日本大震災を機に心境が変化する。「私は『あの日』の前日まで伯父たちと一緒にいた。生かされた者として原爆の実像を伝えなければ」。研究テーマを原爆文学に変えた。

 連続講座の担当は初めての経験だ。「大海原に漕ぎ出すような気持ち」で緊張しながら、「世界の核軍縮が遅々として進まない今こそ、反戦・平和を希求した栗原の生き方や作品から学ぶべきことは多い」と力を込める。講座は10月5日から計6回。各回1800円。☎082(225)8103。

(2020年9月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ