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「平和研究拠点」構想足踏み 旧理学部1号館活用 公表1年10ヵ月 基本計画示されず

進む劣化 住民「早期具体化を」

 広島市が広島大本部跡地(中区)に所有する被爆建物の旧理学部1号館に、市と広島大、広島市立大が連携して新たな平和研究・教育の拠点をつくる構想が停滞している。市は2019年度中に基本計画をまとめるとしていたが、今も「両大学と協議中」として計画を示していない。被爆75年を経て建物の劣化が進む中、構想の速やかな具体化が求められている。(明知隼二)

 1号館に「ヒロシマ平和教育研究機構」(仮称)を設ける構想は、18年11月の市の有識者懇談会で示された。市は提案を踏まえ、両大学に平和研究機関の移転を要請。広島大平和センター(中区)と、市立大(安佐南区)の広島平和研究所、大学院平和学研究科の移転が決まっている。

 一方、機構での研究や教育の具体的な内容、施設計画や概算費用などを盛り込む基本計画は、構想の公表から1年10カ月が過ぎた今も示されていない。市都市整備局の中村純局長は16日の市議会一般質問で、「(3者での)運営体制や役割分担など丁寧に検討する必要がある。できるだけ早期に策定したい」と答弁したものの、時期には触れなかった。

 ただ、研究や教育の内容に関する議論は進んでいないのが実情だ。市都市機能調整部は「これまでは主に施設面の協議で、研究や教育など内容面はこれから議論を深めたい」とする。しかし、20年度は3者が集う協議の場は設けられていない。両大学は、移転の決定以外に「具体的な進展はない」とし、関係者から「市の方向性が見えてこない」と戸惑いの声も漏れる。

 広島大跡地の再開発は、1995年に同大が東広島市への統合移転を完了して以降、市や広島県、民間事業者も関わりながら一進一退を繰り返してきた。市は学都の歴史を刻む1号館を「知の拠点」構想の中核と位置付けるが、跡地では商業施設や高層マンションの整備が先行してきた。

 被爆者で元原爆資料館長の原田浩さん(81)=安佐南区=は「1号館は市が所有する財産で、市の懇談会で保存と活用の方向性を示した。研究面は大学が、構想自体は市が前に進めないといけない」と指摘。3者が主体的に構想を前に進めるよう求める。

 構想には、地域住民の要望を踏まえてコミュニティー施設の機能も盛り込まれている。市の懇談会委員も務める千田地区社会福祉協議会の村上堅造会長(73)=中区=は「新型コロナウイルスの影響で住民が集まる場所の確保にも苦労している。とにかく早く進めてほしい」と訴える。

 市は1号館の正面棟を保存・活用する場合の改修費を、14年に18億5千万円と試算した。しかしその後も劣化は進んでおり、費用はさらに増えると見込んでいる。被爆建物の保存の観点からも、構想の早期具体化が求められている。

旧理学部1号館
 1931年に広島文理科大本館として建設された。鉄筋3階建て延べ約8500平方メートル。爆心地から約1・4キロにあり、外観を残して全焼した。49年の広島大開学で理学部1号館となり、同大の東広島市移転に伴い91年に閉鎖。2013年に市が取得した。市は17年、耐震調査などを踏まえ、E字形の建物のうち正面棟をI字形に保存する方針を決めた。18年度、剝落の危険がある外壁タイルを取り除く工事を施工。20年度は土壌汚染調査を予定する。

(2020年9月28日朝刊掲載)

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