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米国人の知らぬ被爆実態 テキサスの博物館 45年撮影の写真集

 米テキサス州にあるテキサス大付属の歴史博物館ブリスコー・センターが、被爆75年の節目に原爆による広島、長崎の惨状を伝える写真集を出版した。いずれも撮影したのは日本人で、米国では知られていないカットが多く含まれている。同館は「核兵器が人間に使われたら何が起きるのか見事に証明し、未来に警鐘を鳴らす資料」とし、館内で写真展も開く予定でいる。

 写真集の題名は「Flash of Light, Wall of Fire(閃光(せんこう)、そして炎の壁)」。広島に原爆が落とされた1945年8月6日から同年末までに広島、長崎で撮影された計118点を収録している。

 撮影者は日本軍所属のカメラマンたち16人と、旧文部省の原子爆弾災害調査研究特別委員会メンバーら。救護所に横たわる市民ややけど治療を受ける女性、破壊された街並みなど、被害の実態を克明にとらえた写真を同館が選んだ。

 企画したドン・カールトン館長(73)は、原爆写真の収集と保存に取り組む「反核・写真運動」(事務局・埼玉県朝霞市)が2015年に発刊した写真集に刺激を受けたという。「米国人が抱く核戦争の一般的なイメージはきのこ雲でしかない。その下で起きた惨事をとらえた写真には、核使用の結末を知らしめる力がある」と強調。核保有国間の緊張の高まりに危機感を募らせていたこともあり、18年から準備を進めてきた。

 ただ事業化には慎重な検討を要した。米国では今なお、原爆使用が戦争終結を早めたとの考え方が根強い。カールトン氏の父親も戦中、米陸軍航空軍に所属。日本侵攻の訓練を受けていたこともあり、原爆投下により命拾いしたと信じていたという。

 カールトン氏は「戦争犯罪を巡る議論を再燃させる意図はない。日本の写真家たちが傷つきながらも記録し、戦後も守り抜いた写真に接し、それぞれに解釈してほしい」と話す。写真の全データは学生、研究者向けに館内で公開する。

 8月6日に出版された写真集は255ページ、定価50ドル。同大出版会や米大手ネット書店で入手できる。米ニューヨーク・タイムズ紙で紹介され、初版1200部は予約が殺到。1700部の増版が決まった。写真展は新型コロナウイルスの収束を待ち、来年2月以降に開く。(田中美千子)

(2020年10月5日朝刊掲載)

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