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被服支廠工事費 4案 広島県有識者会議 年内に方向性

 広島県は14日、広島市南区に所有する最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で保存・活用の方向性を定めるための有識者会議を設立し、初会合を開いた。有識者会議は活用策を探る上で最大のネックとなっている耐震化の概算工事費について、耐震性の有無と活用度合いに応じた4パターンで年内にはじくと決めた。

 有識者会議は、れんが建築や耐震工学に詳しい大学教授や研究者たち6人でつくる。県は、6日成立した2020年度一般会計補正予算で耐震性の再調査費3千万円を確保しており、会議の運営はその一環。17年度に続いて乗り出す耐震性の再調査で、結果を評価する組織と位置付けている。

 初会合は、県庁と欠席の2人を除く4人の研究室などをインターネットでつないで開いた。会長に工学院大(東京)の後藤治理事長(建築史)を選び、県が提案した再調査の詳しい内容や日程について協議した。

 再調査の内容では、建物内部のれんが壁の強度や建物の基礎、防水性能などをチェックすると確認した。最終的に、全4棟のうち県が持つ1~3号棟で、保存・活用の4パターンに沿った概算工事費を出すとした県の提案を了承した。

 4パターンは①耐震化せず、外観を保存する②耐震化して数十人で内部を見学できるようにし、内装はしない③耐震化し、1階の3分の1だけを会議室として活用する④耐震化し、建物全体を博物館や会議室などとして活用する―となる。

 ②以外の3パターンについては17年度の前回調査で概算工事費をはじいており、それぞれ①4億円③23億円③33億円―だった。県は建物内のれんが壁の強度が想定より高く、費用を3分の1程度に減らせる可能性があるとみている。後藤会長は終了後、「前回とは建物の強度の前提が違う」と述べ、圧縮できる可能性が高いとの見解を示した。

 県によると、再調査は9日、前回調査と同じ車田建築設計事務所(中区)と契約し、この日着手した。県は結果を11月に有識者会議へ報告し、12月に概算工事費を固める。その上で「2棟解体、1棟の外観保存」とした安全対策の原案をどうするか、本年度中にも判断するとしている。(樋口浩二)

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で爆心地の南東2.7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、2019年12月に「2棟解体、1棟外観保存」の安全対策の原案を公表。県議会の要望などを受け、20年度の着手は先送りした。4号棟は、所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

<広島県が示した旧陸軍被服支廠の補強案>

①耐震性なし・内部立ち入り不可
外観を保存し、劣化防止に必要なれんが壁、屋根、建具などを補修する

②耐震性あり・内装なし
1棟全体を耐震改修。1~3階は数十人で内部を見学できる

③耐震性あり・一部を活用
1棟全体を耐震改修。1階の3分の1だけを会議室として活用し、2、3階は内部を見学できる

④耐震性あり・全面活用
1棟全体を耐震改修。1階は博物館、2、3階はセミナールームや会議室として活用する

(2020年10月15日朝刊掲載)

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