×

ニュース

被爆瓦で爆発力分析 田賀井・東京大名誉教授が本 広島と長崎「大差なかった」

 「TNT火薬に換算して広島16キロトン、長崎21キロトン」とされている原爆の爆発力について、田賀井篤平・東京大名誉教授(77)=鉱物学=が被爆瓦や石に残る熱線の痕跡を研究し、「両者に大きな差はなかった」と一石を投じる見解を本にした。「さまざまな分野のデータを突き合わせ、真実を探っていくことが大切だ」と力を込める。

 原爆の爆発力は、日米の放射線物理学者らでつくる専門家委員会が2003年に策定した線量推定方式「DS02」で承認されたのが最新の数字。被爆石などから測定した残留放射線のデータが役立てられた。

 田賀井さんは、鉱物学の視点からもアプローチしようと試みた。火災の熱と違い、原爆の高温の熱線にさらされた瓦は、原爆がさく裂した方向の表面だけ0・数ミリ溶けている。どこまで遠くの瓦が溶けたかを示す「溶融限界」をあらためて探った。

 1953年に日本学術会議が出した報告書は、故渡辺武男・東京大教授が率いた調査班などが戦後間もない時期に集めたデータを基に、広島の溶融限界を「爆心地から600メートル」としている。しかし田賀井さんによると、広島大調査団が45年末までに収集した福屋百貨店西側(爆心地から700メートル)の瓦の標本などにも溶けた跡があった。

 そこで渡辺氏手書きのフィールドノートと報告書の草稿を照合すると、距離の誤記がいくつかあった。「極メテ軽微ナル瓦ノ溶融」と草稿にある爆心地から850メートルの旧広島県庁を溶融限界と判断した。

 次に、原爆がさく裂した広島上空600メートル、長崎上空500メートル地点から溶融限界までの直線距離を計算した。大きな違いはなかった。瓦が溶け出す温度も勘案しながら、爆発力を「広島22キロトン、長崎23キロトン」と推定した。長崎原爆の威力は広島の1・5倍と言われるが爆発力ではなく「爆発高度の違いによるのではないか」とみる。

 「DS02」の策定に関わった静間清・広島大名誉教授(71)=放射線物理学=は「熱線から調査した貴重なデータだが、放射線物理学と結論は同じになりにくいだろう」と指摘する。田賀井さんは「原爆については正確に分かっていないことがまだ多い。被爆岩石などから探る意義を多くの人に知ってほしい」と話す。焼け野原の広島と長崎で研究者が懸命に集めた瓦や石を今後の研究にもっと生かそう、との思いも込める。

 「はじける石・泡立つ瓦 蘇(よみがえ)る石の記憶―ヒロシマ・ナガサキ」は智書房刊。2640円。(山本祐司)

(2020年10月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ