×

連載・特集

ヒロシマの記録2020 1~6月

コロナ禍 核廃絶探る

 被爆75年。節目の年に、被爆者たちは悲願だった核兵器廃絶に向けて強いメッセージを発し、行動するはずだった。その機会は新型コロナウイルスの流行で大きく制約を受けた。

 8月6日の平和記念式典は、感染予防のため、参列者を例年の1割以下とする異例の小規模となった。国連のアントニオ・グテレス事務総長は欠席し、遺族代表も過去最少に。来館者数を伸ばしていた原爆資料館(広島市中区)も長期の臨時休館を強いられた。

 老いを重ね、重症化リスクの高い被爆者の証言活動も妨げられた。どれだけの人たちが、被爆の資料に直接向き合い、被爆者の肉声を聞く機会を奪われたか。無念が広がった。

 一方、希望の光も差した。

 核兵器の開発から使用までを全面禁止する核兵器禁止条約の批准数は10月、発効に必要な50カ国に達し、来年1月の発効が決まった。核兵器を非人道的で違法と断じる初の国際規範。核保有国は背を向けるが、核軍縮を迫る圧力になるとの期待が膨らむ。米国が複数の批准国に批准撤回を求める書簡を送った事実は、一定の圧力を感じていることの裏返しだろう。

 その核超大国では新しいリーダーが決まった。核兵器開発につながる75年前の初の核実験を「素晴らしい偉業」と表現したトランプ大統領が選挙で敗れ、来年1月、民主党のバイデン氏が新大統領に就任する。

 そのバイデン氏は8月6日に声明を発表している。「広島、長崎の恐怖を二度と繰り返さないため、核兵器のない世界に近づけるよう取り組む」。2016年に被爆地広島を訪れたオバマ前大統領の姿勢を引き継ぐ決意を明確にした。

 「核兵器の終わりの始まりに」。禁止条約の発効を受け、被爆者たちは前を見据える。ただ、米ロや米中の対立など世界の安全保障を巡る環境は厳しく、核軍縮の道のりには苦難が待ち受ける。

 21年夏には、今春から延期された核拡散防止条約(NPT)再検討会議がある。禁止条約に実効性を持たせる締約国会議も、発効から1年以内に開かれる。

 芽生えた新たな希望を「終わりの始まり」にどうつなげるか。被爆国でありながら、禁止条約を批准していない日本政府にどう働きかけるのか。世界の覚悟と協調とともに、被爆地の市民として見届けなければならない。(久保田剛)

1月

 1日 北朝鮮国営メディアが、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が昨年12月末の党中央委員会総会で「世界は遠からず、わが国の新たな戦略兵器を目撃するだろう」と予告したと伝えた。米国の敵視政策を非難し、核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の中止措置撤回を示唆

 3日 「原爆医療」を切り開いた重藤文夫氏(1903~82年)が、45年8月6日に着ていた国民服や、広島原爆病院の開設に至る公文書などの膨大な書簡類を残していたと中国新聞が報道。原爆資料館(広島市中区)などが整理、検証へ

 5日 国連のグテレス事務総長が、8月6日に広島市である平和記念式典に参列し、東京五輪閉会式に出席したい意向を日本側に伝えていたと判明▽イラン政府が、2015年に欧米など6カ国と結んだ核合意逸脱の第5弾の措置として、無制限にウラン濃縮を進めるとの声明を発表

 8日 広島市内最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)で「2棟解体、1棟の外観保存」の原案を示した広島県に対し、県被団協(坪井直理事長)と県原水禁が3棟全ての保存を求める要望書を提出

 11日 戦艦大和の元乗組員で、証言活動を続けた八杉康夫氏が、福山市の特別養護老人ホームで死去。92歳。敵艦との距離を測る測的発信手として乗船し、救援活動で原爆投下直後の広島市で入市被爆

 17日 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求め、50キロ圏内にある島に住む山口県東部の住民3人が申し立てた仮処分の即時抗告審で、広島高裁が運転を認めない決定をした。周辺の断層帯が活断層である可能性が否定できないと判断▽広島県が旧陸軍被服支廠を巡る意見公募に延べ2232人が応じたとの速報結果を発表。「2棟解体、1棟の外観保存」とした安全対策原案への賛否は反対60%、賛成34%、その他6%

 21日 市民団体「旧陸軍被服支廠の保全を願う懇談会」が、旧陸軍被服支廠の全棟保存を求める2700人分の署名を広島県に提出

 23日 米誌が、核戦争発生の危険性などを評価し、地球最後の日までの残り時間を概念的に示す「終末時計」の最新時刻を「100秒」と発表。1947年の創設以来、過去最短に

 28日 広島市が平和記念公園(中区)地下に残る旧中島地区の被爆遺構について、米軍による原爆投下で暮らしを奪われた人々の住居跡などを実物展示する整備方針案をまとめたことが判明

2月

 4日 米国防総省は、低出力で「使える核兵器」と称される小型核を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を海軍が実戦配備したと発表▽広島市中区の平和大通り周辺事業者や住民でつくる検討協議会が、にぎわいを生む新たな取り組みを市に提言。通りの緑地帯にカフェなどを整備する内容

 5日 米空軍が核弾頭を搭載可能なICBM「ミニットマン3」の発射実験を西部カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地で行ったと発表。約6700キロ飛行し、マーシャル諸島近くに落下

 11日 米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が、衛星写真の分析で、北朝鮮北西部寧辺の核施設で貨車3台がウラン濃縮施設につながる軌道上に停車していると確認したと発表

 13日 広島市が8月6日の平和記念式典の静粛を確保するため、デモの拡声器の音量を規制する条例を検討していることを巡り、参列者が許容できる基準として拡声器から10メートル地点の音量を85デシベル以下とする案をデモの実施団体に提示

 14日 国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ調整委員長は、東京五輪組織委員会との事務折衝後の記者会見で、トーマス・バッハ会長が5月に広島を訪問すると発表

 17日 広島県の湯崎英彦知事は、旧陸軍被服支廠の「2棟解体、1棟の外観保存」について、20年度の着手の先送りを表明。被爆者団体の要望や広島市の全棟保存の訴え、慎重な対応を求める県議会の意向などを踏まえた

 22日 原爆資料館が原爆壊滅後の広島市街の様子をカラーで捉えた空撮映像の公開をスタート。英国帝国戦争博物館から入手した1945年10月~46年2月ごろの撮影とみられるデータ

 23日 45年8月6日に被爆したイエズス会の外国人神父・修道士16人の名前と遺影が、同会日本管区本部(東京)によって国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市中区)に登録、公開されると中国新聞が報道

 25日 広島、長崎で被爆した3人が原爆症に認定するよう国に求めた3件の訴訟の上告審判決が最高裁第3小法廷であり、白内障や慢性甲状腺炎の経過観察について原爆症認定要件の「要医療性」に当たらないと判断。原告側敗訴が確定

 29日 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、原爆資料館の臨時休館が始まる▽中国が弾道ミサイルの開発や運用訓練のため昨年1年間で計百数十発を発射していたことが判明

3月

 2日 北朝鮮が東部元山付近から北東方向の日本海に向け、短距離弾道ミサイルと推定される飛翔(ひしょう)体2発を発射

 3日 イラン核合意の履行状況の検証に当たる国際原子力機関(IAEA)は、同国の低濃縮ウラン貯蔵量が2月19日時点で1020・9キロになったとする報告書をまとめた。核合意が規定する202・8キロを大幅に上回る

 5日 核拡散防止条約(NPT)発効から50年。広島市の松井一実市長は「自国第一主義の台頭を背景に核軍縮はできないという核兵器保有国の主張が勢いを増している」と懸念を表明▽自民党の「被爆者救済と核兵器廃絶推進議員連盟」が、旧陸軍被服支廠について「被爆建物としての価値を踏まえ相当数残すべき」と決議

 8日 原爆投下後に降った「黒い雨」を国の援護対象区域外で浴びたとして、区域拡大や被爆者健康手帳の交付を求めた集団訴訟の原告団副団長、松本正行氏が、広島県安芸太田町の病院で死去。94歳

 9日 北朝鮮が東部咸鏡南道・宣徳付近から北東方向の日本海に向け、少なくとも飛翔体3発を発射▽IAEAの定例理事会(35カ国)がウィーンで始まり、欧米など6カ国と結んだ核合意を逸脱してウラン濃縮などを続けるイランに対し、合意順守を促す

 10日 旧陸軍被服支廠で、市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」が解体に反対する6430筆の署名を広島県へ提出▽米英仏ロ中の核保有五大国の外相が、NPT発効50年を受け「核軍縮への効果的な措置に向けた誠実な交渉に取り組む」との共同声明を発表

 19日 広島市が、平和記念公園にある原爆ドームを南側から見た景観を保全するため、建物の高さを制限する範囲の素案を策定。原爆資料館本館の下からドームを見て左右17度、ドーム北側に広がる奥行き最大5・2キロの範囲で高さを法的に制限▽国立広島原爆死没者追悼平和祈念館は、爆心地から約2・3キロの楠木町(西区)にあった煉獄(れんごく)援助修道会三篠修道院で被爆するなどしたシスター8人の遺影を新たに公開

 21日 北朝鮮が北西部・平安北道宣川付近から日本海に向け、短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体2発を発射

 25日 北朝鮮在住の被爆者の支援に尽力した広島県朝鮮人被爆者協議会会長の李実根(リシルグン)氏が、広島市西区の高齢者施設で死去。90歳

 27日 新型コロナの世界的流行を受け、NPT加盟国が4~5月に米ニューヨークの国連本部で予定していた5年に1度のNPT再検討会議を「状況が許すようになるまで」延期すると決定したと国連が発表

 29日 北朝鮮が東部元山から北東方向の日本海に向け、短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体2発を発射

4月

 2日 新型コロナ感染拡大の影響で、原爆資料館での被爆証言などの予約キャンセル、延期が500件を突破したと中国新聞が報道

 6日 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館は、被爆15年後に急性白血病で亡くなり、原爆ドームの保存運動につながる日記を残した楮山(かじやま)ヒロ子さん(1944~60年)の遺影登録を発表

 7日 原爆資料館の入館者数が2019年度は175万8746人に上り、1955年度の開館以来最多だったと判明

 10日 東京五輪・パラリンピック組織委員会が5月に予定していたIOCのバッハ会長の来日が中止になったと明らかにした。聖火リレーに合わせて被爆地の広島を訪れる計画だった▽防衛省のシンクタンク防衛研究所は、日本周辺の安全保障環境を分析した年次報告書「東アジア戦略概観2020」を公表。中距離核戦力(INF)廃棄条約の失効を受け、ロシアが北方領土を含む極東地域に中距離ミサイルを配備する恐れがあると表明

 14日 広島県は核兵器を巡る世界36カ国の19年の取り組みを3分野で採点した「ひろしまレポート」を公表。核軍縮の分野では16カ国が前年と比べて評価を下げ、10カ国は変動なし。米ロ間の条約失効や米国の情報公開の低下で「停滞・逆行のスパイラル(連鎖)」と分析▽北朝鮮が南東部の江原道文川付近から短距離巡航ミサイルと推定される数発の飛翔体を北東の日本海側に向けて発射

 15日 米国務省は軍縮・軍備管理に関する報告書を公表。中国が爆発力を抑えた小規模核実験を実施した可能性があるとの見方を示す

 24日 新型コロナ感染拡大を受け、平和首長会議(会長・松井一実広島市長)が8月3~6日に広島市で開催予定だった総会を延期すると発表。原則4年に1回開く総会の先送りは初めて

 25日 世界各地の国際非政府組織(NGO)による核兵器廃絶の世界大会がオンラインで開催。NPT再検討会議に合わせて米国で開く予定だった。日本被団協や日本原水協を含め、米国などのNGO代表者たち10人が発言

 29日 NPT再検討会議の延期を受け、非政府組織(NGO)ピースボート(東京)が、核軍縮をテーマにしたオンライン会議を開催。被爆者や市民団体のメンバーたち約100人が参加し、核兵器廃絶の議論を途切れさせないよう連携強化を確認

 30日 広島県がNPTに加盟する190カ国・地域に核軍縮の推進を求める要請書を送った。NPT再検討会議の延期で県の政策を現地で発信できなくなったため。加盟国に要請書を送るのは初めて

5月

 3日 三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンク、ゆうちょ銀行を含む国内16銀行が核兵器を運搬するミサイル製造などに携わる企業への投資や融資を自制する指針を定めていることが、共同通信のアンケートで判明

 7日 広島県北広島町原爆被害者の会が被爆75年の記念事業として7月に予定した慰霊式の中止を決めたことが判明。高齢の会員が会場に集まるリスクなどを踏まえた

 11日 延期されたNPT再検討会議を巡り、日本を含む世界各地のNGO計約80団体が、全加盟国・地域に核軍縮の具体的な進展を求める共同声明を送付

 13日 広島市は、平和宣言の文案を検討する懇談会の初会合を中止し、書面による意見聴取に変更すると明らかにした

 17日 国の被爆者対策の基本理念を議論するため1979~80年に設けられた厚生相(当時)の私的諮問機関で、サンフランシスコ講和条約の交渉担当だった元外務省条約局長が「原爆投下の人命破壊は国際法違反で、米国に損害賠償責任がある」と発言していたことが判明。同時に対米請求権を同条約で放棄した日本政府に死没者と遺族への施策を講ずるよう求めたが、厚相への意見書には反映されなかった

 20日 広島市が被爆75年に合わせて企画した18事業のうち、新型コロナ感染拡大の影響で、旧中島地区の被爆遺構の展示整備など8事業で遅れが生じたり、延期や中止を決めたりしたことが判明

 21日 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館は、広島県出身の被爆作家、大田洋子(1903~63年)の遺影を登録したと発表。自らが目にした被爆の惨状を基に小説「屍(しかばね)の街」を書き上げた

 24日 北朝鮮の朝鮮中央通信が、朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議が開かれ、「核戦争抑止力を一層強化し、戦略武力を高度の臨戦状態で運営するための新たな方針」を提示したと伝えた

 26日 山口県原爆被爆者支援センターゆだ苑は「山口のヒロシマデー」の9月6日に山口市で開く原爆死没者追悼・平和式典での参列者を例年の半数の100人程度に縮小すると決定

 29日 広島市の松井市長が新型コロナの影響で8月6日の平和記念式典の参列者席を例年に比べ9割減らし、最大880席にすると明らかにした▽広島市は、太平洋戦争開戦の地となった米国ハワイ州の真珠湾で原爆資料館が初開催する予定だった原爆展を延期すると発表。ホノルル市の戦艦ミズーリ記念館で7月上旬から9月3日まで開く計画だった

6月

 1日 新型コロナの影響で閉館していた原爆資料館が約3カ月ぶりに再開

 2日 ロシアのプーチン大統領が、米国による宇宙での軍拡やロシアへの攻撃を念頭に核戦力で対抗する指針を定めた文書に署名。ロシアに向けた弾道ミサイル発射の情報を入手した場合などは「核兵器を使用する」用意があるとの姿勢を打ち出した

 3日 日本原水協と原水禁国民会議が、それぞれ8月に広島、長崎両市で開く原水爆禁止世界大会をオンライン開催に切り替えることが判明。1955年の第1回以降、実際の集会が催されないのは初めて

 12日 広島市は原爆資料館で受け取る料金について、現在の名称「観覧料」を使わないようにすると表明。「娯楽性を感じる」などと変更を求める陳情や意見が相次いでいた

 13日 大竹市原爆被爆者協議会が8月6日に市内で開く原爆死没者追悼・平和祈念式典の参列席を、例年のほぼ半分の200席にする方針を決定

 15日 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、今年1月時点の核弾頭総数が世界で計1万3400個となり、昨年同時点から465個(約3%)減少したとの推計を発表。減少傾向は続くが、昨年20~30個だった北朝鮮は30~40個に増強

 18日 安芸高田市向原町の被爆者でつくる町原爆被害者友の会が、夏の追悼式の中止を決定。会員の減少などで解散を決め、最後の追悼式を開けなかった

 19日 IAEAの定例理事会は、イランが秘密に行った可能性がある過去の核関連活動の解明に向け、IAEAへの全面協力と査察受け入れを同国に求める決議を賛成多数で採択▽原爆症の認定を求めて1月に広島市で申請手続きをした在韓被爆者の黄芳子(ファンバンジャ)さん(韓国・ソウル市)が5月に認定を受けていたことが判明。韓国で申請できるが、現地の病院の協力が得られず、支援者の協力でやむを得ず来日していた

 22日 被爆の影響で心筋梗塞や甲状腺機能低下症を患っているのに原爆症と国が認めないのは不当として、被爆者11人が原爆症の認定申請の却下処分の取り消しなどを国に求めた訴訟の控訴審判決で広島高裁は5人の却下処分を取り消し、原爆症と認めた。6人については一審広島地裁判決を支持し請求を退けた▽世界遺産の原爆ドームの保存工事を請け負う事業者が4回目の入札で決定

 26日 国連報道官が、8月6日に広島市で営まれる平和記念式典に出席する意向を示していたグテレス事務総長が欠席する方針と明らかにした

 29日 広島の被爆者7団体が、原爆の日に日本政府へ要望する内容に、核兵器禁止条約へ署名・批准を盛り込むと決定。被爆75年の節目に条約に背を向ける政府の姿勢を変えることが最重要課題と位置付けた

(2020年12月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ