×

ニュース

発効 ヒロシマに希望 創作劇上演 「戦争ない世界を」

 核兵器禁止条約が発効した22日、被爆地広島では喜びの声が広がった。被爆者や平和団体の関係者たちは「歴史的な出来事」と歓迎し、平和記念公園(広島市中区)では発効を記念するイベントが開かれた。条約に反対する日本政府に対しては、署名・批准を求める声が相次いだ。(明知隼二、猪股修平)

 「被爆者だけでなく、世界の人たちにとって歴史的な出来事。希望の光が見えたようだ」。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(78)は、中区の原爆ドーム前で報道陣の取材に応じ、発効を喜んだ。ただ、条約には米国やロシア、中国など核兵器保有国は不参加。「まだ越えなければならない山がある。1カ国でも批准の方向になれば廃絶が前進する」として、今後は保有国への働き掛けが重要だとした。

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(76)も、原爆ドーム前であった集会で「核兵器廃絶へ歴史的な一歩を踏み出す日だ」とあいさつ。禁止条約が人道の観点から、いかなる場合も核兵器の使用を禁じている点を強調した。「被爆国」を掲げながら条約に背を向ける日本政府に対しては「広島と長崎の悲劇を繰り返さないため、条約に署名、批准して廃絶へ努力すべきだ」と求めた。

 核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)などは、原爆ドーム前でキャンドルをともして発効を祝うイベントを開いた。森滝春子共同代表(81)は「保有国だけでなく、日本など核に依存する国をどう切り崩していくか。人類を滅ぼす核との熾(し)烈な戦いに打ち勝つため、広島市民も立ち上がってほしい」と呼び掛けた。

 近くの「原爆の子の像」の前では、小学生から20代の若い世代が創作劇を上演。原爆被害と、焼け跡から立ち上がる市民の姿を描く内容で「二度とこんな戦争が起こらない世界をみんなでつくって」と訴えた。出演した山本小5年の尼子大喜さん(11)は「学校行事で原爆資料館を見学して衝撃を受けた。広島で生まれたからには、原爆について伝えていかないと」と、被爆地の若い世代としての思いを新たにした。

 広島女学院高1年の石山愛子さん(16)はメッセージを読み上げ「条約発効を世界中の人々に感謝したい。私たちが平和について立体的に学び、世界に発信していく」と誓った。

「為政者動かす力に」若者ら

 核兵器禁止条約が発効した22日、被爆地広島の市民や平和活動に取り組む若者たちも歓迎の声を上げた。米国の「核の傘」に依存する日本政府が参加していないことを踏まえ、「今後の取り組みが問われる」との受け止めも広がった。

 広島市中区の平和記念公園。この日も多くの市民や観光客たちが原爆犠牲者に祈りをささげた。「8月6日に地獄を見た。発効は喜ばしいが、ここで終わらせてはならない」。犠牲になった父親と妹の慰霊のため訪れた被爆者の福永一衛(かずえ)さん(90)=同区=は、日本政府が条約に署名・批准をしていないことへの無念さもにじませた。

 安佐南区の団体職員小丸涼さん(26)も「核兵器をなくしていくのはこれから。日本も参加に向けた姿勢を示してほしい」と求めた。

 被爆2世で「韓国の原爆被害者を救援する市民の会広島支部」の中谷悦子支部長(71)=廿日市市=は「喜ばしい。ようやく緒に就いた感じだ」と発効を評価した。「世界各地で多くの核被害者が命を奪われ、苦しんできた。核の力に頼る国々はこの事実に向き合ってほしい」と訴えた。

 「核の被害者となるのは私たち市民。若い世代で条約の認知度を高め、為政者を動かす力としたい」と強調したのは「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の高橋悠太共同代表(20)=横浜市。同公園でガイド活動をしている大学1年奥野華子さん(19)=広島市中区=は「核兵器を次世代に残さないよう、被爆者たちが声を上げ続けたからこその条約。このバトンを受け継ぎたい」と誓った。(小林可奈、猪股修平)

(2021年1月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ