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原医研実験棟が完成 低線量被曝研究や原子力災害訓練機能 広島大、来月運用開始

 広島大が広島市南区の霞キャンパスで建設を進めていた原爆放射線医科学研究所(原医研)の実験棟が完成し、4月に運用を始める。今も詳しく分かっていない低線量被曝(ひばく)の影響などの研究に役立つ国内有数の放射線照射装置や、原子力災害が起きた際の対応を学ぶ訓練機能を備えている。国内外のほかの機関の研究者との共同利用も進め、拠点性を高める。(水川恭輔)

 実験棟は鉄筋5階建て延べ約4千平方メートル。原医研の研究棟の隣接地で2020年2月に着工し、今年1月末に完成した。総事業費は17億6千万円。

 1階には、被曝した人への緊急的な医療対応を実習する原子力災害トレーニングセンターを整えた。学内外の医療関係者たちが、内部被曝線量の測定や除染などの訓練をする。

 2~4階には、マウスをはじめとする動物用の放射線の実験室などを設けた。高線量から極めて低い線量まで幅広い放射線を当てられ、細胞や遺伝子レベルの実験ができる。

 5階には、原爆被爆者の医療などに関する資料を保存している被ばく資料調査解析部が、キャンパス内の別棟から移る。セミナーなどができる講堂や会議室もある。

 原医研は、原爆被爆者の医療と放射線障害の解明のため、1961年に発足した。2016年には長崎大原爆後障害医療研究所(長崎市)、福島県立医科大ふくしま国際医療科学センター(福島市)とともに文部科学省の「放射線災害・医科学研究拠点」に認定され、ほかの機関の研究者と施設の共同利用や共同研究を進めている。

 これまでは研究棟から離れた場所にある実験施設を使ってきたが、手狭で老朽化していた。田代聡所長は「新たな実験棟は国内の大学で最も充実した放射線の研究設備を備えている。原爆被爆者に関する資料を含めれば、世界でも類のない研究所だ。放射線に関する医療、研究に携わる国内外の多くの人に活用してほしい」と話している。

(2021年3月17日朝刊掲載)

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