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社説・コラム

馬毛島での自衛隊基地建設どう対応 鹿児島・西之表の八板俊輔市長に聞く 「失うもの大」 国民的議論を

固有の自然 日本の財産

 米軍岩国基地(岩国市)に拠点を置く空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)の移転を前提に、鹿児島県西之表市の馬毛島で進む自衛隊基地の建設について、同市の八板俊輔市長は中国新聞の取材に「失うものの方が大きい」と反対する姿勢を強調した。国民全体での議論を呼び掛ける考えも示した。(永山啓一)

 ―馬毛島への基地の建設に「同意できない」とする理由を教えてください。
 西之表市がある種子島には移住者が多い。静かで暮らしやすく、子育てしやすいからだ。基地ができれば子孫に負担を残すことになる。豊かな漁場も損なわれる。既に基地がある地域では戦闘機が想定と違うコースを飛んだり部品を落としたりする問題があり、抗議しても繰り返されている。失うものの方が大きい。

  ―市の人口減少が進む中、基地に頼らないまちづくりをどう進めますか。
 市の人口は1万5千人。半世紀でほぼ半分になった。若者の多くは高校卒業後に種子島を出て行くが、それでも近年は30代半ばに戻ってくるケースが多い。都市部からの移住者も増えている。こうした動きを促すために、どうすれば良いか考えないといけない。

 観光資源を発掘し、施設を整えていく。1次産業も重要。伐採期を迎えたスギの搬出に向け、港を整備する。馬毛島にはニホンジカの亜種マゲシカを頂点とする豊かな動植物がある。弥生時代の遺跡など、無人島だからこそ守られたものがある。自然や歴史、文化を生かした観光や研究に活用したい。

  ―1月末の選挙で再選を果たしましたが、国は基地建設を進める姿勢を変えていません。
 防衛省は「地元の理解と協力が必要」としている。普通に理解すれば、地元の了解がないとできない。「国が決めたから止められない」というのは幻想だ。

  ―岩国基地周辺の住民には地元でFCLPをする可能性がなくなるなら、早く馬毛島に基地を整備してほしいという声もあります。
 岩国の市民が「うるさいのは嫌だ」と思うのは当然だ。ただ、馬毛島はどうでもいい無人島ではない。へき地だからこそ残された、この土地にしかない資源がある。それはわれわれの財産であるだけでなく日本の財産。国民全体にこの問題を考えてもらいたい。

  やいた・しゅんすけ
 1953年、鹿児島県西之表市生まれ。早稲田大政治経済学部卒業後、朝日新聞社入社。社会部記者、熊本総局長などを経て2012年に退職し、帰郷。2017年、西之表市長に初当選し、2期目。

(2021年3月31日朝刊掲載)

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