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社説・コラム

73歳の被爆者の死 後悔しても時すでに遅し

■記者 森田裕美

 悔やんでも悔やみきれない。女性の地位向上や核兵器廃絶に向け地道な活動を続けた広島市中区の被爆者、佐々木愛子さんのことだ。11月24日、73歳で突然、亡くなった。知り合って7年余り。活発で家裁の調停委員や実業家としても多忙な人だった。働く女性の後輩として、被爆の記憶を継承する戦後世代として、教わることが多かった。

 ドイツ・ポツダムに「ヒロシマ広場」をつくる現地の市民の活動に賛同した愛子さんはこの夏、被爆地で募金の呼び掛けを始めた。その取材の別れ際、食事に誘ってくれた。何か話したそうだった。

 何度か会う日取りを調整したが、実現しなかったのはいつもこちらの都合。「いつでも会える」と先延ばししたせいで、それきりになってしまった。

 愛子さんは生前、請われてしばしば海外に出かけ、広島市郊外で救護被爆した自身の体験を語っていた。なのに、私は体験にゆっくり耳を傾けてこなかった。高齢化する被爆者の声をつむぐ意味を、これまでの取材を通じて痛感しているのにもかかわらず。

 愛子さんは広島では親しい人にもあまり体験を語っていない。手記なども見つからない。後悔しても時すでに遅しだ。「今この瞬間を大切に」。一番、私に伝えたかったことなのかもしれない。

(2008年12月1日朝刊掲載)

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