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社説・コラム

指導者は努力・信念を土台に育つ 東京大名誉教授・山内昌之氏 

 「すべからく歴史に学ぶことが大事だ」。広島日英協会に招かれ、広島市中区で講演した東京大名誉教授の山内昌之氏(65)=中東イスラム地域研究、国際関係史=は、混沌(こんとん)とした現代社会においても、リーダーはカリスマや天才ではなく、努力と信念を土台にして生まれる、と強調した。

 演題は「チャーチルと『アラビアのロレンス』」。第2次世界大戦下の英国を主導した首相と、考古学者から英陸軍の情報将校となり対オスマン帝国のゲリラ戦を展開した戦略家だ。2人は文学者の顔も併せ持つ。

 「平時」「危機」のそれぞれの場面で求められるリーダー像は異なり、チャーチル首相(1874~1965年)は後者だという。冷徹な分析と判断、そして「自分の出番だ」という確信の強さが秀でていたとみる。

 映画のモデルにもなったロレンス(1888~1935年)。山内氏は「アマチュアでも努力を重ねればリーダーになれる一例」と解説する。大学時代から中東で考古調査をして地図作製の技術や語学力を高め、第1次世界大戦では情報将校として自らを磨いた。

 努力によって磨かれたリーダー像について山内氏は「直感的な洞察がそのまま現実になる人であり、非合理的な、理性で説明できない力を発揮する」との見方を示した。

 また、指導者に欠かせないのは「公明正大さ」と指摘。古代アテネの政治家ペリクレスや、大正期の日本政界をリードした原敬を例に「温和な中に尊厳がある」とした。

 山内氏は「国内外の古典を読み、物事の筋道を考えてほしい」と提言。そこから「現在を捉え、どのような未来に進むべきかが見える。天才でなくてもリーダーになれることを若い人にも伝えていきたい」と語った。(広田恭祥)

(2013年4月6日朝刊掲載)

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