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検証 湯崎県政1期目 平和推進 拠点構想で役割強化

 広島県知事選が24日に告示される。いずれも無所属で、再選を目指す現職の湯崎英彦氏(47)=自民、公明推薦=と、新人で共産党県委員会常任委員の大西理氏(47)=共産推薦=が立候補を表明。最大の争点となるのは、湯崎氏の1期目の評価だ。4年間で県政はどう変わり、どんな成果と課題が出たのか、平和推進の取り組みについて、知事選を前に検証する。

 国内外の有名アーティストが被爆地・広島市中区に集まった8月3日のワールド・ピース・コンサート。広島初公演となった米国の大物プロデューサー、クインシー・ジョーンズさんが「原爆は二度と使ってはいけない」とアピールすると、会場から拍手が湧いた。

1万5000人が来場

 主催は広島県を中心とした実行委員会。7~8月に八つのコンサートを開き、出演した国内外の35人・16団体が平和のメッセージを発信。計1万5千人を集め、連日満席となった。ジョーンズさんの公演を聴いた安佐北区の主婦松島麻理さん(57)は「感動した。音楽を通せば平和に関心を持つ人が増える」と県の試みに賛同した。

 湯崎英彦知事が就任して以降、県は被爆地からの発信に力を入れる。藤田雄山前知事時代、広島市が被爆の惨禍と核兵器廃絶を訴え、県は紛争地の復興支援などを担い、すみ分けてきた。湯崎知事は2009年の知事選で「ひろしま国際平和センター機能の構築」を公約。ピースコンサート開催も訴えた。

 県は11年10月、公約を具体化する「国際平和拠点ひろしま構想」を発表した。多国間の核軍縮交渉や平和構築分野の人材育成に積極的に関わり、核兵器廃絶の後押しを目指す。湯崎知事は翌11月、米ニューヨークの国連本部を訪問。潘基文(バンキムン)事務総長から構想実現への支援を取り付けた。

 昨年4月には職員8人のプロジェクト・チームを新設。ことし7月、アジア・太平洋地域の学識者が核兵器廃絶の道筋を探る円卓会議を広島市で開いた。

 平和施策を強化する県を広島市はどうみるのか。松井一実市長は「平和行政の中心部分は市が担い、県には核兵器のない世界の実現へ向け取り組んでもらっている」と理解を示す。一方、県議会では知事を支持する会派からも「市が担うべき仕事ではないか」(民主県政会の中原好治氏)との意見も聞かれる。

「それぞれ発信」

 湯崎知事は「被爆の実相を伝えるという市の役割以外にもできることがたくさんある」と反論。「市、県、国がそれぞれ発信することが大切」と話す。

 県はことし6月、県民の意識を探るためアンケート(回答191人)を実施した。構想を「知っている」は14・1%。「聞いたことはあるが詳しくは知らない」が54・5%で、「知らない」は31・4%に上った。

 市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子共同代表(74)は「県が何を目標に掲げ、何をしているか分かりづらい」と指摘する。市との役割分担や将来像を分かりやすく県民に説明し、巻き込んでいく取り組みが欠かせない。

 同コンサートでは開催資金に充てる目的で、入会金500円のピースサポーターを募った。8月末時点の入会者は2万2416人。目標の10万人の2割強にとどまった。

 構想取りまとめに携わった広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長は「広島を平和の拠点と位置付け、国際社会に働き掛けようとする知事の姿勢は評価できる」とし、「今後は実際に世界の核軍縮に影響を与え、県民が実感できる成果が求められる」と話す。(野崎建一郎、岡田浩平)

国際平和拠点ひろしま構想
 広島県の湯崎英彦知事が2009年の知事選で平和拠点の構築を公約。明石康元国連事務次長たち国内外の有識者の提言を踏まえ、県が11年にまとめた。被爆地広島の役割に核兵器廃絶への貢献や平和構築分野の人材育成などを掲げる。ことし4月、各国の核軍縮・不拡散の姿勢を採点する「ひろしまレポート」を公表。現在は復興のプロセスを検証するリポートづくりや、平和構築に関する研究を集積する方法の検討を広島市や県内の大学と進める。湯崎知事の父は、被爆者の生活を追跡調査した社会学者で元広島大教授の故湯崎稔氏。

(2013年10月3日朝刊掲載)

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