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連載・特集

特定秘密保護法案を問う <上> 広島弁護士会秘密保全法制問題対策プロジェクトチーム幹事・尾山慎太郎弁護士

不都合な事実隠される

報道や市民活動も萎縮

 政府・与党が特定秘密保護法案の今国会成立に向けて突き進んでいる。国民の知る権利の侵害や市民活動の萎縮が懸念され、審議が「性急だ」との指摘が出ている。2人の識者に法案の問題点や暮らしへの影響を聞いた。

 ―広島弁護士会は特定秘密保護法案の廃案を求めています。
 「日本はスパイ天国で、情報保全を確立しないと外国と情報共有ができない」といわれるが、どう困っているのか。現在も秘密漏えいには国家公務員法100条(守秘義務違反)で規制はかかっているが、同法違反で頻繁に起訴されているわけでもない。そこが一番怪しげだ。

 ―法案の中身の問題点は。
 秘密を指定する行政府に裁量を与えている点だ。しかも範囲が漠然としているから、不都合な事実も秘密にできる。例えば原発問題。安全だという情報は積極的に公表しても、危険を示す情報は隠すかもしれない。

 官僚組織は責任を取ることや批判されることを嫌う。秘密を守ってくれる「器」があれば使いたいのは当たり前。これまで公開されていた情報すら秘密にされる可能性がある。情報公開や行政の透明性と逆行している。

 ―国民にはどんな影響がありそうですか。
 法案には、特定秘密を聞き出そうと話し合う「共謀」、唆す「教唆」、呼び掛ける「扇動」にも罰則が設けられており、市民活動が萎縮する。

 ―具体的には。
 原発でいえば、政府が事故のシミュレーションをした際、テロ活動に利用される恐れがあるとして特定秘密に指定したとする。市民団体が避難計画を作ろうと「あの人に情報を聞きに行こう」「特定秘密かもしれないけどデモで開示を呼び掛けよう」と話し合ったら、立件されるかは別としても法律上は処罰が可能になっている。

 ―新聞記者の経験から言えることは。
 報道機関も萎縮する。広島県警が持つ公安情報も特定秘密にしようと思えばできる。記者が夜討ち朝駆けで関係者を取材した際に「特定秘密かもしれないから」と言われたら、「逮捕されてでも真実を暴こう」とはなりにくい。報道機関が家宅捜索される可能性も増す。情報源がばれるのを恐れて内部告発者もいなくなる。

 ―知る権利が侵害される懸念があります。民主主義の形骸化につながりませんか。
 主権者である国民がその代表を選挙で選ぶとき、情報が政府の都合で隠されれば、判断材料がなく選びようがない。国が持っている情報は基本的には国民の共有財産で公開する必要がある。

 ―なぜ政府・与党は成立を急ぐのですか。
 早くしないと反対の世論が盛り上がって不都合だからでは。特定秘密の妥当性をチェックする機関について安倍晋三首相が「設置する」と述べたが、具体的に何も決まっていない。そんな状況で法案だけ先に通すのはおかしい。その点だけでも今国会で成立させるのはばかげている。(新本恭子)

おやま・しんたろう
 東京都練馬区生まれ。京都大文学部卒。産経新聞記者を経て、09年に弁護士登録。12年1月から広島弁護士会で特定秘密保護法案のプロジェクトチームの幹事を務め、シンポジウムなどを通じて法案の問題点を指摘してきた。38歳。

(2013年12月5日朝刊掲載)

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